か う
平『百五十両で高いと云ふたのは斯様ぢや、半兵衛、今貴様は何と云
し
つた、損さへ為なければ、手放したいと云つたのではないか』
半『左様で……』
なにびと
平『全体此刀剣は誰から買取つたのか、売主は何人であるかな』
半『ヘイ……夫れは何でこざいます、或る御武家様から買取りました
が、お名前の処は少々申上げ兼ねまするで……』
ね
平『貴様は此品を、最初に直を取極めて買つたのではあるまい』
半『エツ』
かたな いくら
平『最初は此刀剣で幾許かの金子を用達つて、返済の期限に至つて借
いは
主は金を返さぬので謂ば質流れになつたのであらうが』
星をさゝれたので、半兵衛はハツと思つて居る。
平『実は此刀剣の出所は私は能く知つて居る、が貴様が其借主の名誉
を重んじて誰の手から出たと云ふ事を申さぬのは感心をいたしたが、今
か た たてか
年の七月に貴様は此刀剣を抵当に取つて、金を取替へたのであらう』
半『貴下様は能う御存じでございますナ、では何でございますか、五
十両お貸し申した事も御承知で……』
かわづ
蛙は口からと云つて、三木屋半兵衛、自分の口から、五十両貸した事
しま うち
を云つて了やアがつた、大塩平八郎は腹の中で、扨は五十両を貸して置
ひど
いて、百両の口銭を取らうとするのは、酷い奴だと思つて、与力の事で
わざ
ございますから、態と言葉を改めまして。
平『半兵衛ツ』
半『ヘツ』
のち
平『其方、七月に五十両の金子を貸し、其後の六ケ月に対し、元金を
引去つて、百両の利分、即ち口銭を取らうとするは甚だ宜しくないぞ』
半『ヘイ』
と云つて恐る々々平八郎の顔を見て、悪い処へ引掛つたと思つて居る。
あきんど もとね
平『併し斯うは申すものゝ其処は商人の事だから、元直に係はらず、
わし
客次第で高く売ると云ふ事もあらう、が私はそんな上客ではない、殊に
こんにちがら
其方の口から損さへしなければ、今日ネだから手放したいと云つたでは
こ
ないか、だから私も百五十両で買ふ事は出来ないが、斯ういたせ、五十
ど
両の元直として、百両に売つたら宜からう、百両で手放しをいたせ、如
う
何ぢや半兵衛』
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