Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.18

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その22

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第五席 (2)

管理人註
   

   ど う  此如何ぢや半兵衛と云ふ、平八郎の語気が如何にも役所で調べをする 時のやうでございますから、半兵衛も気持が悪うございます、モウ平八 郎に斯ういはれて見ると、夫れ以上の口銭は取る事が出来ないと思ひま        すぐ                 したが、其場で直に手を打つて負て了つては、却つて可けないと思ひ、 商人の癖で別に痒くもないのに、小指の爪で頭を掻きながら。     もつとも           もの  『御正理でございます、五十両の品を百五十両と申したのは実に斯     わ け                   かたな ういふ理由で、成程最初五十両をお貸し申して、此刀剣をお預り申しま       のち した処が、其後に至りまして、私の手許が不如意な処から、また私は此     わ き 貞宗で他家から七十両の金を借りましたので……前の五十両と其七十両                         もとね を合しますると、百二十両に相成りますので、そこで元直を百二十両と して三十金だけの儲けが致し度いと存じまして、エヘ……』  いやな笑ひをして、大塩平八郎が何と云ふかと顔を見て居ります。               ・・    『コレ半兵衛、貴様、慾にぼけては可けない、七十両と五十両を合    い か                    つかつ せば如何にも百二十両になるが、其七十両は貴様が費消たのであらう、 壺算用をしては可けない』  半兵衛は成程と思つて、真赤な顔をして居りますと、平八郎は。                      ね               にく  『半兵衛、斯ういたせ、貴様は今直ぐに直の取極めがいたし難から                  めうにち うから、今日はは帰つて能く考へて、明日でも返辞をいたせ、其代りに 刀剣は此方へ預つて置く』  『ヘツ……』               すぐ  『而して兎も角も、五十両は今直に貴様に渡して置くから百両で宜 ければ明日返辞に来た節に残金を渡さう、また相談が出来なければ、此 五十両を持つて刀剣を受取りに来るがよい』  平八郎は五十両の金を半兵衛の前に差出しました。  『それでは仰しやる通り、明日お返事をいたしまする……併し此金 子は』  『イヤ/\刀剣を私の方へ預つて置くのだから、謂はゞ手附金のや うなものぢや、苦しうない持つて帰りなさい』  『では然ういふ事に願ひまする』         ふところ  い  と半兵衛は金を懐中に収れまして。  『どうも初めて上りまして、御無礼な事を申上げ恐れ入りまする』  『イヤ/\そんな事は如何でも宜い、明日は必ず返事を待つて居る ぞ』    かしこ  『畏まりましてございます』  と三木屋半兵衛は貞宗の刀剣を預け置いて立帰りました。

   


『大塩平八郎』目次/その21/その23

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ