Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.20

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その24

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第五席 (4)

管理人註
   

 『コレ民、お前は実に怪しからん事を云ふ奴ぢや、如何に手許が不 如意だからと云つて、重代の宝を質に入れよとは、奇怪千万、そんな事 がもし母に聞えたら、何と云つて御立腹なさるかも知れない、お前も知                     なく つてるだらうが、全体この竹上の家督は、お亡なり遊ばした兄の熊三郎         いら 殿が、相続をして在つしやつた処が、御病身であつたから順養子として、 此万太郎が家名を継いで居るのぢや、其兄の熊三郎殿が先年御臨終の折 ネ、私を枕許にお呼びなすつて、此竹上家と云へば、先祖伝来の貞宗の かたな      たとへ 刀剣ぢや、仮令如何なる場合たりとも、売払つたり、人手に渡す事はな らんと、呉々も御遺言をなすつた位の大切の品だ、夫れを典物にするな      ほか どは以ての外の事ぢや』  と立腹をしたやうに見せましたので、お民はアゝ悪い事を云つたと、 顔を真赤にして。  『誠に悪い事を申しました、何卒御勘弁をなすつて下さいまし…… 併し稲垣さんから拝借いたしました五両と、岩村さんの七両とは、どう したつて明朝お返し申さんければ、先方様でもお差支になりませう』  『そりやア先方だも困るだらうが、モウ今日になつては金策をする みち 途がない、お前、紋附の着物があつたらう、アノ小紋縮緬の』  『ハイ』  『其紋附に今不用の着物を残らず集めて、山田屋を呼びにやつて』  『貴下はマア何を仰しやいます、其紋附は九月の月季に、山田屋に 質にやりました事は貴下も御存じでございませう、また唯今不用の品な どは何処を捜したつて有りは致しません』        あつ  と夫婦が額を鳩めて、金策の相談をして居ります処へ、老母のお倉と 云のが、守口から白井孝右衛門と同道をいたして立帰つて参りました、 是れが文政十二年の十二月廿九日の事でございます。




重代
先祖代々伝
わっている
こと



順養子
弟が実兄の
養子となる
こと





典物
品物を質に
入れること


『大塩平八郎』目次/その23/その25

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