Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.23

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その27

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第六席 (2)

管理人註
   

 扨案じて居た年の関も安らかに越しましたので、文政十三年の正月元 日には、万太郎も早々大塩の家へ年首の礼を兼ね、今度の一條に就ての               やしき 礼に参りました処が、早大塩の邸宅には大勢の門人、また同僚の人々な どが座敷に列して年酒が始まつて居りましたから、万太郎は年賀の祝詞                    かたな を述べましたが、流石に満座の中だから、刀剣に就ての厚意を謝する事                       ・・・ を憚つて居りました、平八郎もまた少しもそんな気ぶらひをして居りま せん、併し万太郎にして見ると、早く其礼を云はなければ気が済まない      をり                        から、何か機があつたら云はう、先生が座をお立ちになつたら、従いて               うち 往つて云はうと思つて居ります中に、平八郎は座を立つて、次の間へ出            あと    つ ましたから、万太郎は其後から継いて出て。       このたび  『先生、今度の御厚恩、何と御礼を申して宜いか、万太郎、終生此 御恩は忘却仕りませぬ』  と畳に額を摺付け、涙を流して礼を述べますと、平八郎も其日は元日 の事でございますから、竹上万太郎に対しては何事も云はず、他の門人 等と共に年酒の盃も済み、万太郎も同家を辞して、他の家々へ回礼に出        のち 掛けました、其後とても平八郎からは一向に刀剣に就いての事は言ひ出 さないが、万太郎の方では却つて何にも小言を聞かない方が薄気味が悪 い、其処で守口の白井孝右衛門の方へ参りまして。       いろ/\  『昨年は種々御厚志に預かりまして、有難う存じまする、夫れに就                           ど う いて後素先生には、一向に何事も仰しやらないですが、如何いふ思召し でございませう』  『イヤ夫れは別に如何と云ふ事もないが、先生も新年早々に、門人 を叱るのは宜くないとの思召しで、何とも仰しやらないのであらうと思 ふ、併しいづれ何とか御異見をなさるであらう』  と云つて居りましたが、果して平八郎は十五日を過ぎてから、万太郎                             のち を居間に呼入れ、他人の聞かぬやうに異見を加へましたが、其後は更に     恩にも被せず、相変らず養成をして居りました、             なかば      いつも 扨其年の春も過ぎ、五月の中旬頃、平八郎は例の通り東奉行所に於て公 務に従事いたして居りますと、奉行高井山城守の家来が、平八郎の詰所 へ参りまして。            『平八郎殿、お退けになる時に、御前が何か御用があると仰しやい ますから、左様御承知下さい』  平八郎は何の御用かと思ひながら。  『委細承知仕りました』  と云つて考へたが、御用があるとは、公用であるか、夫れとも山城守 が自分の用談であるか分りません、平八郎は役所の退ける時間を待つて、 山城守の居間へ参りまして。

   


『大塩平八郎』目次/その26/その28

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ