Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.5

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その39

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第八席 (4)

管理人註
   

         かみ          まいない       よか  『然うでせう、上の御役人方の奢りや、賄賂を取つて宜らぬ事をなさ        それゆゑ るものだから、夫故に天道様が、上役人衆を懲しめる為めに、雨を降らし たり、風を吹かせたりなさるのでせう』  『上役人を懲しめて頂くのは結搆だが、其お相伴に粥をすゝつたり、 芋を喰つてお尻を鳴して居ちやアつまりません』  などゝ噂をして居りましたが、其翌年は幸ひにして無事であつた、所が 東町奉行はまたもや代る事になつて、今度は大久保讃岐守と云ふのが新任 として、前の戸塚備前守と交代なりましたので、また斯ういふ噂が立つた。  『どうだい、又東の御奉行が代つたぢやないか、久しい間お勤めにな   いら つて在つしやつた、アノ高井様が退職をなすつたのは、天保元年のたしか 七月だつたが、夫れから二、三、四、五六と今年で足掛け六年の間に、曾 根日向守様に戸塚備前守様、夫れから今度が大久保讃岐守様だ、あんまり 代りやうが早いでは無いか。其癖西の御奉行様はお代りなさらない』                         おほ  『大きな声ぢやアいはれないが、こりやア何でも大公儀の方ぢや、東 の御奉行の評判が宜くないからだぜ』  『然うかも知れない、併し其評判の悪いと云ふのは、近頃東の組与力 や同心衆との間に、威光の争ひをして居るもんだからな』  『西だつて東だつて、同じ町の御奉行で、其下に使はれて居る与力や 同心が、威勢を争つたつて、仕様がない話しぢやないか』                        おれ  えら       あいつ  『だが人間と云ふものは然うはいかないもので、己が豪い、己は彼奴 の下に付いて働くのは嫌やだと云ふ気になるものだ、何も西が東に負ける                 どろぼう             よけい の勝のと云ふ事はないが、西の手で盗賊でも何でも悪い奴を一人でも余斗  つか に捕まつたり、同じ捌き方でも、巧くやりたいと思ふのが人情だから、そ こで西組は東の御奉行の事を悪く云ふから、つまり夫れが江戸の方へ聞え て、お奉行を代へたら宜からうと云つたやうな塩梅に、斯う早く交代にな るのだよ』  町人が集まつてさへ斯んな噂をする位だから、東組の与力や同心の仲間        しば/\              しよゐ では、町奉行が 屡 交代なるのは、全く西組の者の所為に基く事だと云ふ 風説が行はれるので、大塩平八郎は隠居の身の上ではあるが、残念で堪ま りません、処が天保七年の七月になると、また大久保讃岐守は免職となつ て、其跡へ跡部山城守と云ふのが赴任して参りました、シテ見ると高井山 城守以来の東奉行は、いづれも在職満二年と云ふ者はない位だ。


大坂町奉行一覧
(大塩平八郎関係)


『大塩平八郎』目次/その38/その40

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