Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.6

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その40

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第八席 (5)

管理人註
   

                どころ  また此天保七年丙申の年は、前年処では無い、夏から大雨が降続いたの で、今年の秋は大凶作と云ふ事が分つて居るから、折角下落して居た米の 直が、またグツと上つて来たので、愈世間が喧しくなつて来ました、平八     うち 郎の腹の中では如何も東町奉行の評判も宜しくなし、今度赴任せられた跡 部山城守と云ふ人も、まだ其気質も詳しく分らないが、兎も角も忰格之助 を以て、今年の米高に就いて、跡部山城守の意見を伺はせて見やうと思ひ     あるひ まして、一日格之助を傍近く招き寄せ。                    た ち  『格之助、今次の御奉行は如何いふ性質であるか、私は斯うして隠居 をして居る身であるから、役所また御役宅へ往つて、お目に掛ると云ふ事  いかゞ               にち/\ も如何であるが、お前は日々出勤して居るから、大抵分るであらう』                                 を り  『お尋ねがございますから申し上げますが、実は私も此間から、機会            あなた があつたら一応此事を、貴父のお耳に入れて置きたいと存じて居りました、 と云ふのは他の事でもございません、如何も今度の御奉行は、吾々東組の 者のあるにも係はらず、是れぞと云ふ御用は、西組の者へ密に御命じにな るやうでございます』  『ナゝ何と云ふ、東組の者等を差措いて、西組の者を御用ひになると                   わ け は、怪しからん事ぢや、併し夫れは何ぞ理由のある事であらう』  『理由と申した処で、詳しい事は分りませんが、どうも東組の与力、 また同心は勤め向きも宜しくない、また自己の存じ寄りのみを申し募り、 トンと御奉行の仰せを守る者がない、もし此儘で置く時には、奉行は有つ          ますま て無きものゝ如く、益す増長するから、夫れゆえに西の矢部公に御相談の 上、是れだと云ふ御用は、西組の者へ御命じになるのでございます』                まる じんさい  是れを聞いて平八郎の額には、宛で薄菜のやうな青筋を現はして怒つた。


幸田成友
『大塩平八郎』 
その104


『大塩平八郎』目次/その39/その41

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ