Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.8

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その42

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第九席 (1)

管理人註
   

 『ハイ、御奉行へ如何いふ事を願ひますので』         ほか                         『イヤ夫れは他の事でもない、今も云ふ通り、今年は夏の掛りから彼 の通りの天候で、目下の米価は実に近年未曾有の騰貴で、到底此儘では小                  つく/゛\ 前の者が喰て行く事は出来ぬ、そこで熟々と考へて見た処が、此上は難波    く ら の御倉庫に収めてある米を取出し、其米を以て救ふより、此場合他に分別 がないから、其方から跡部様へ懇願をして呉れい』        もつとも           めうにち  『これは御正理な思召しでございます、明日御役所へ罷り出まして、 委細の事を御奉行様へお願ひ申して見まするでございます』  『平八郎よりも其儀を、お願ひ申して居ると云つて呉れい』  『畏まりましてございます』                           をり  そこで格之助は其翌日、東町奉行へ出勤いたしまして、機を見て山城守 へお目通をり願ひ。  『申し上げます』  『何ぢや』                     つぶさ           ござ  『愚父平八郎、御役宅に罷り出まして、具に御願ひ申すべき筈では厶     いますが、隠居の身にございますれば、拙者を以つてお願ひ申し上げます る』  『何事の願ひぢやな』  『御承知の通り、近来米価の騰貴、今日では実に其極に達しまして、                         びんぜん 路傍に餓死する者さへ尠なからざる惨状、何とも早や憫然の至りにござい ます、就きましては此窮民を救ひますには、官廩を開き、其米を以つて救                みち ひ遣はしますより、他に致すべき途は之あるまじく存じ、此儀を懇願奉れ よと、平八郎の申し附けにございますれば、何卒御採用の程、願はしう存 じまする』                       跡部山城守、心中に、また彼の高慢な平八郎奴、何を云ふかと思ひまし    わざ おもて たが、態と面を和らげて。  『格之助、其方の養父平八郎は、斯くまで窮民の困難に意を用ふると                 もつとも は、予も実に感服いたす、如何にも正理なる願ひではあるが、町奉行とし て官廩を開くと云ふ事は出来ぬ、此事は平八郎も能く心得て居る筈の事ぢ や、依つて予も今即答に、其事を承知いたしたとは申されぬ、併しながら 兎も角も委細の事を、御城代土井大炊頭殿へ申請し、其許可を得て速かに 執行する事にいたさうから、其方帰宅したれば父平八郎へ、左様申し呉れ い』  『早速お聞済み下されまして有難く存じまする』  と格之助は大きに喜び、帰宅をすると早速養父の前に行きまして。


憫然
あわれむべき
さま


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