Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.9

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その43

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第九席 (2)

管理人註
   

 『唯今戻りましてございます』                さぞつか         『オゝ帰つたか、日々の勤務嘸労れたであらう、而して如何であつた、 昨日申附けた事を、御奉行へ申し上げて呉れたか』      あなた  『今日貴父の仰しやいましたる事を、御奉行へ申し上げましたる処、 山城守様にも御賛成で』  『ナニ、跡部公も御賛成下されたか』                         もつとも  『左様でございます、平八郎の申す処、如何にも道理千万である、併              こめぐら し町奉行として勝手気儘に御米庫を開くと云ふ事は出来ぬ、此事は平八郎   かね にも予て知つて居る筈の事ぢや、依つて兎も角も御城代様へ申し上げ、許 可を得たる上、早速米を取出す事に致さうと仰しやいましたので、私も大 きに力を得て立帰りましてございます』  『左様であつたか、夫れは誠に好い都合であつたな、跡部公から土井 公へ其事を願はれたら、決して故障はあるまい』  と平八郎も大きに喜びまして、其後はモウ何とか御沙汰があるだらうと 思つて、十日計りも其安否を待つて居りましたが、一向に何の沙汰もない、 平八郎も心なりませんから。                   た        ま  『格之助、今日でモウ十四五日も経つのに、未だ何とも御沙汰のない のはどういふものであらうか、お前、役所で御奉行と顔を合さぬといふ事 はあるまい、余り不思議に思はるゝから、其方から返事を促して見るが宜             なほざり い、斯様な一大事を然ういつまでも、等閑にして置かるゝ筈はない』  『私も左様に存じますから、明日はモウ一度伺つて見るでございませ う』                めのさき  『然うして呉れ、焦眉の難を目前に控へて置いて、一日猶予すべき事 でないから』  そこで格之助は翌日役所に於て、跡部山城守へ催促をして見ますると。  『イヤ其事は予も心には掛つて居るが、其方も知る如く、此頃は公務                    ひま が多端であるから御城代の処へ往つて居る隙がない、夫れゆえに心ならず                                 うち も、今日まで打棄て置いたが、モウ暫らく待つて呉れ、必ず茲四五日の間 には御城代に御目に掛り、平八郎の望み通り、難波の御蔵米を、御下渡し になるやうに致すであらう、平八郎にも其辺の事を能く云つて置いて呉れ い』  『何分宜しくお願ひ申し上げまする』

   


『大塩平八郎』目次/その42/その44

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