Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.10

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その44

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第九席 (3)

管理人註
   

 大塩格之助は立帰つて、其旨を父平八郎に語りますと。  『アゝ実に跡部殿は目先きの見えない人だ、今日町奉行の職を奉じな    した/゛\ がら、下民の者が是れ程までに苦しんで居る事に、意を用ひぬと云ふ事が                   えら あるものか、是れを思ふと高井殿は実に豪い人であつた、もし今日高井殿 が御奉行であつたならば、決して斯ういふ事はない』                      と平八郎は何に就けても、跡部山城守の行り方が癪に障つて堪りません、 けれども如何する事もできないから、また四五日も待つて居りましたが、 矢張り何の沙汰もございません、斯うなると平八郎は云ふ迄もなく、格之                            た ち 助も気が堪まりません、此格之助と云ふのは至つて温厚な性質でございま すが、夫れでさへもモウ辛抱を仕兼ねまして、又山城守に向つて督促をい たしましたる処、いつもと違つて気色を変へ。  『然う度々催促をせずとも宜いではないか、予に於ても等閑には致し て居らぬ、土井殿に面会いたして、万事協議を致したのぢや』  『左様とは存じませず、御催促かせましく申し上げましたる段は、御 勘弁を願ひまする……夫れでは御蔵米を……』  『イヤ、お身に対しては甚だ気の毒千万ではあるが、実に斯様ぢや、            せじゆつ 土井大炊頭殿に就いて、施恤米の儀を願つて見た処が、城代の申さるゝに    う へ は、将軍様来春には御退隠遊ばされ、御代替りの大典を行はせらるゝ御都 合であるから、申さずとも御物入と云ふ事は解つて居る、其御費用を償ふ には差し詰め御蔵米を取出して、其米を以て補はねば相成らぬから、江戸 表よりして、当地にある米を、廻送せよとの御沙汰が度々ある折からなれ          く ら ば、到底難波の御倉庫を開いて、米を取出すと云ふ事は出来ぬとの事であ つた、夫れにまた後城代の御意見では、仮令江戸表より廻送の御沙汰が無                      みのり くつても、今春以来の凶作であるから、来年の実も如何であるか分らぬ、 それを知りつゝ御蔵米を取出すと云ふ事は出来ない、今御蔵の米を無くせ し為めに、御役料御合力米に欠乏する様な事でもあつた時には、役目の失                     ことがら 態となる事は云ふまでもない事ぢや、其辺の事情を考へて見る時は、平八           もつとも 郎なり、お身の意見も道理には思へども、気の毒ながら此事は断念いたし 呉るゝ様、お身から平八郎へ能く云つて呉れい』  と思ひも寄らぬ山城守の言葉に、格之助に於ても大きに驚き、早速立帰 つて委細の事を父平八郎に物語りますと、イヤ怒つたの怒らないの処では ない。

   


『大塩平八郎』目次/その43/その45

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