もつとも
成程善右衛門の申す処も正理に思はれると、平八郎もまた自分に一軒づゝ
頼み廻るよりも、鴻池屋善右衛門から豪家の者等へ、出金の事を勧誘して
呉れゝば好都合でございますから。
まかせ い
平『然ういふ事なら万事貴公へお委任申す、何うか宜いやう相談をして、
し
吉左右をお報らせ下さるゝやうに』
善『委細承知仕りましてございます』
やしき
と是れから二三世間話しをして平八郎は、天満の自邸へ立帰り、委細の
事を庄司儀左衛門、其他の者に話しますと、儀左衛門も。
儀『鴻池で然う云つて呉れゝば、最早十中の八九までは、望みの通り金
調は出来るでございませう』
こつち
と大きに喜びまして、鴻池からの返答を待つて居りました、此方は鴻池
おも
善右衛門、大塩平八郎の立帰りましたる後で、庄兵衛、伊兵衛等を始め重
このた
立たる者を集めて相談をいたしますと、いづれも大塩平八郎の今度びの思
ひ立ちは、頗る美挙であると賛成しまして。
いよ/\
△『エゝ旦那様、天五様をはじめ加島屋さん、その他のお方々で 愈 御
出金を遊ばす事になりましたる節は、御当家はまづ筆頭の事でございます
から、決して負ては相成りませぬ』
○『私共の考へでも、斯うして貧乏人の難渋を救ふ事に金を出すのは、
少しも惜しいとは存じません』
と番頭達も大きに慈善心を出して、千両でも二千両でも、出金をしやう
と云ふ事になりましたが、兎も角も他家とも相談せねばなりませんから、
したゝ
早速に廻状を認め、至急に御相談の儀があるから、明日早朝より私方迄、
御光来下さるやうにと云ふやうな文意で、天王寺屋五兵衛、平野屋五兵衛、
加島屋久右衛門、同じく作兵衛、米屋平右衛門、炭屋彦兵衛、辰巳屋久左
衛門、其他数名、いづれも当時屈指の豪家の主人を招きました、サア此廻
ひととほり
状を見ました人々は、何事を協議するのか、コリヤ尋常の事ではあるまい
と、大抵は主人が直々に出て参りました、尤も二三軒は病気、また他行中
よんどこ
などで 拠 ろなく、支配人を代理として出席いたさせました。
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