Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.17

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その50

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十席 (4)

管理人註
   

     ころほひ  全体その頃比の習慣では、かゝる長者達の集会と云へば、相当の料理屋、 まづ今日で申さうなれば、差詰平野町の堺卯楼とか、北浜の灘万とかの座 敷へ集まりまして、相談がそこ/\に済むと、流れと云つて、北の新地、        おほぢやや             きま また新町などの大青楼の座敷で酒を飲み直すのがお規りでございますのに、 鴻池の本宅へ招かれたのだから、一同も変に思つて居ります、扨座席が極 りますと、善右衛門 は、一同に向かいまして。                   こんにち          さぞ  『どうも皆様、斯様に押詰りました今日、お招き申上げまして嘸御迷                ど こ 惑でございませう、夫れにまた何方かの座敷を借りて、お話しを致すべき の処なれども、皆様方にも御承知の通り、昨今の不景気の折ネ、世間体を 憚り、夫れにまたチト他聞を憚かりまする事もございますので、私の宅へ 御足労を願つたやうな事で……実は斯様でございます、昨日手前共へ、天 満の大塩平八郎様が、お越しになりましてございます』          『ハゝア、彼の与力衆の、評判の高うございました大塩様でございま すか』  『左様でございます』  『彼のお方は此頃では、後素先生と申しまして、陽明学とやら云ふ学            いで 問を、お教へなすってお在との事を承りましたが、其お方がまた何の為め に、御当家へお越しになつたのでございます』  『サア夫れが実に容易ならぬ事で、夫れが為めに斯うして貴下方に、 御足労を願つたやうな訳で……マア一通りお話しをいたしませう』                          いちぶしじう  と是れから善右衛門は、昨日大塩平八郎から頼まれた一伍一什委しく一 同の人々に物語りをいたしましたる処、一同は顔を見合せ、いづれも手を こま 拱ぬいて思案をして居りました。   うち  其中に天王寺屋五兵衛が膝を進ませまして。            もつとも  『承まはれば実に御道理な次第、皆様方のお考へもございませうが、 私は此際応分の事なれば、出金いたさうかと存じまする』  と口を切りましたから、平野屋五兵衛も。  『往来は一筋隔たつてあつても、隣同士の天王寺屋さんが御出金なさ るのに、私の方が黙つて引込んでは居られませんから、無論出金をいたし ますが、併し鴻池さん、御当家では何程御出金のお覚悟でございますか』                              のち  『左様でございます、実は昨日大塩様がお帰りになりました後に、支 配人共と相談いたしまいた処が、他の事ではなし、昨今貧家の人達の困窮       あて は、実に目も当られぬ有様でございますから、私共では少くも五千両出金 の決心でございます、併し皆様方が夫れより以上御出金なりますれば、私 共も決して惜みは致しません、七千でも八千でも、場合に依つては一万両 でも御附合を致しまする』    あたな  『貴家が五千両お出しになるなら、手前共も五千両出しませう』  『天王寺屋さんが五千両なら、手前の方でも五千両出す事にいたしま せう』

   


『大塩平八郎』目次/その49/その51

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ