Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.19

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その52

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十一席 (1)

管理人註
   

 そこで鴻池屋善右衛門其他三軒の者は、いづれも支配人を以つて代人と し、御奉行所へ出頭いたさせますと、跡部山城守には。  『其方共連名にて伺ひ出でたる儀、実に以ての外の事ぢや、これは其 方等の知らぬ事ぢやが、大塩平八郎より忰格之助を以つて、一度ならず二 度三度、貧民救恤の為め、難波御蔵米の取出し方を願ひ出でたれど、御蔵                  とゞけ            ほしい 米欠乏の恐れあるがゆえに、其儀聞き届ざりし処、今また平八郎、恣まゝ に町人共を説いて金品を借入れ、困窮の者を救はんとするは、慈善の名を               おのれ 借りてコリヤコレ畢竟するに、自己の名を売らんとするに外ならず、左様         たとへ なる儀に其方共、仮令一銭たりとも、奉行所より沙汰なきに平八郎へ貸与 へるは宜しからず、併し他の事とは違つて、窮民救恤と云へば決して悪い 事でもないから、其方共が一存を以つて、平八郎へ金を貸遣はす分には、 敢て差支はない、ぢやが一応心持の為めに申し置くが、今日与力の隠居に すら、莫大の金子を貸すとあれば、今後に及んで、公儀より、御用金を仰 せ出ださるゝ時には、一言半句たりとも、苦情は云はさぬから、左様心得 て居るが宜いぞ』   と山城守に一本止めを刺されたので、互ひに顔を見合せ、大きに驚いて 奉行所を退き、立帰つて其趣を一同の者に告げ知らせました、サア斯うな                                いろ/\ ると米屋平右衛門は鼻が高い、そこで又々一同の者が集まりまして、種種 相談をいたしましたが、此上は大塩平八郎方へ断りを云ふより外に仕様が                                 こと ございませんから、最初に頼まれたのが不承、鴻池屋善右衛門からして謝 わり つかひ 絶の使を遣る事になりました、斯かる事とは少しも知らない大塩平八郎は、       き つ さ う モウ鴻池から吉左右を云つて来るか、モウ金子を持つて来て呉れるかと待 つて居ります処へ、取次の者が平八郎の居間の襖を開けまして。  『何ぢやナ』  『今橋の鴻池屋善右衛門の手代、徳兵衛と申す者が参りまして、お目          いかゞ 通りを願ひますが、如何取計らひませう』  『ナニ鴻池の手代が来た、ソレ待兼ねて居る処ぢや、客の間へ通して、          叮嚀にせんければ可けないぞ』  取次の者は鴻池の手代徳兵衛を客の間へ案内をいたしました、手代と申              うち しても、此徳兵衛は、別家の中でも相当の資格のある者、客の間へ案内を               やが されたものゝ、針の筵に座す心地でございます、軅て平八郎が出て参り。  『是れは/\、お前が徳兵衛殿でござるか』

   


『大塩平八郎』目次/その51/その53

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