Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.17

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その73

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十五席 (2)

管理人註
   

 平八郎は、矩之允が断然たる言葉を聞いて、満面朱を灌ぎし如くにして、 憤り。  『ナゝ何と申す、今一言云つて見よ』  『幾度にても申し上げます、悪きと知つてお諫めも致さぬは、之れ甚 だしき罪かと心得ます、昔より不義の企てを為したる者に、首尾よく成就 したる例はございませぬ』  『ナニ、不義の企てとは何だ、イヤサ、不義とは何を以て不義と申す か、正々堂々たる今度の挙を、不義なりとは無礼の一言、サア不義とは何   わ け の理由を以て申すか』  と平八郎は今にも矩之允を、討果さんとする勢ひでございますから、隔 ての襖をガラリと開き、此処へ駈入つたるは大井正一郎と、他三四名の同 志者。              もつとも  『先生、御立腹は一応御正理ではございますが、矩之允殿が即座に承 知をせられぬのも無理の無い処、まづ/\我々にお任せ下さいませ、コレ サ矩之允殿、貴公もまた物事を能く考へずして、不義の企てなどゝ申さる から、先生も御立腹なされたのだ……先生、矩之允殿は我々から、尚ほ此 度の挙を細かに物語りまして、屹度我党の一人に加へて見せませうから…… サゝ矩之允殿、篤と熟考をして返答をするが宜い、今川口から上陸した斗 りでは、心も落着いて居るまいから』                   うち  と大井正一郎が説き付けて居りまする中に、大塩平八郎は其座を立去り                            いろ\/ ました。其跡で正一郎其他の者が、矩之允を取囲みまして、種々に説付け、 味方に致さんと勧めますと、矩之允は。                   おの\/  『甚だ失礼な事を申すやうぢやが、各 には大義名聞を、誤解しては                  あなが 相成りませんぞ、先生が今回の挙は、強ち不良の企てゞはござるまいが、 拙者は到底成就せまいと思ひます』  矩之允は大塩の企ての、非なる点を挙げて議論を試みましたが、何分に        くわ                     とゞ も多勢に無勢、寡は衆に敵し難く、所詮此処で今何と云つても、止まる気 遣ひはないと見て取つて、矩之允も意を決し、此上は我が一身を犠牲に供 し、大勢が死地に臨むが如き、無謀の企てを思ひ止まらせやうと思ひ、夫 れとなくに一同に向ひ。       おの\/  『拙者も 各 のお勧めに随ひ、一味に加はりませう、併し拙者は今度             良之進と云ふ、一僕を召伴れて居りますから、彼れは未だ若年でもあり、 かれ 渠が郷里長崎を出立の砌に、両親より依頼を受けたる事もござれば、まづ 素知らぬ顔をして、良之進は彦根へ出立いたさせ、拙者は先生に御同意を して、花々敷く立働ひて御覧に入れませう』  正『何様夫れも御正理、御家来をお帰しになつて、我々一味にお加はり      かたじ 下さるとは辱けない』



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その113

森 繁夫
「宇津木静区と
九霞楼


『大塩平八郎』目次/その72/その74

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