Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.18

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その74

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十五席 (3)

管理人註
   

 『拙者は暫時一室を拝借いたし、良之進には夫れとなく暇乞ひを致し                  はゞかり      おの/\ て、一刻も早く国許へ遣はしませう、憚りながら、各より、先生へ宜しく お伝へを願ひたい』  と云ふので、一同の者は、言甲斐があつたと打喜びまして、其一室を立            かね       やしき 去りました、矩之允は、予てより、大塩の邸宅の勝手を知つて居りますか                   へ や ら、自分が先年此邸宅に居つた時に、部家として居りました小座敷へ入つ て見ると、見覚えのある机に本箱などが置いてあります其机に向つて、国       もと         かきおき したゝ 許なる、母の許へ送るべき遺書を認めて居りますと、最前より大塩邸の供 部家に居りました岡田良之進は、虫の知らせとでも云ふのか、何となく矩                ど こ 之允の事が心に掛りますので、何処に何をして居られるのかと思ひながら、                あちら 庭伝ひに前栽の方へ来て見ると、彼方の座敷とは廊下伝ひになつて居りま す、離れた小座敷の内に、矩之允は、手紙を認めて居ります様子、傍へ立 寄らうかと思つたが、物を書いて居る処へ無遠慮に行くのも悪いと心得、 柴垣がありましたから、其小蔭に身を潜めて様子を窺ふて居りますと、矩                               ど う 之允は少し書いては思案をし、また書いては息を吐いて居ります、如何   ようす   た ゞ         なにゆえ も其挙動が尋常なりませぬ、夫れに何故か此邸宅へ大勢の者が集まつて居 て、何となく殺気を帯びて居りますから、不思議でなりません、コリヤ主                     よか 人を促して、一刻も早く、此邸宅を出るのが宜らうと思ひましたから、柴                ひとま 垣の小蔭を立出で、矩之允の居る一室の椽先きへ立寄りますと、モウ此時          うはふう には手紙を書終り、上封をして今上書をして居る処でございます。                  てう  『オゝ其処へ来たのは良之進か、恰ど宜い処であつた、今お前を呼ん  いゝつ で吩咐ける事があつたのだ』  『左様でございましたか、而して貴下はいつお立ち遊ばします』  『いつ立つとは、帰国の事を尋ねるのか』  『左様でございます』  『実は今度斯うして御当家へ立寄つたのは、来る途中でも云つた通り、                               つもり 久々で先生の御機嫌を伺つて、直ぐにまたお暇を申して帰国を致す心算で                          とゞ あつたが、先生のお勧めに依つて、暫らく此大阪に足を止めねば相成らぬ                           てがみ 事になつたのぢや、夫ゆえに今其趣を認めた処、其方は此書状を持つて、 一刻も早く帰国をして呉れい、委細の事は此書状に認めてあるから』         かきおき             ふところ    いくら  と今上書をした遺書の一通を良之進に渡し、尚ほ懐中から幾許かの金子 を取出しまして。



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その113

森 繁夫
「宇津木静区と
九霞楼


『大塩平八郎』目次/その73/その75

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