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役人替名
一 幻の吉五郎 一 百姓権兵衛
一 百姓仁助 一 伊藤伊予守霊魂
一 同 太郎助 一 母 貢
一 同 又作
造物 二重襖、通り押入、納戸口、赤壁
下手塗垂塀 上手障子家体
都て世話場の飾附
吉五郎、仁助と角力を取り、又作、権兵衛、太郎助、居る
誂らへの鳴物にて幕開く
〔ト 両人色々あつて、仁助を見事に投げる
皆 々 ハヽヽヽ
仁 助 何で笑ひさらすのじや、勝負は時の運づくじやわい
権兵衛 何ぼう運づくでも、子供に負ける奴があるものか
又 作「吉五郎に投げられおつた、ざま見され
太郎助 高慢の鼻、ひしげてよい気味じやわい
仁 助 ヤイ吉五郎、能うもおれに打附けさらした、覚へて居いよ
吉五郎 ヲヽ口惜しくば、角力でなりと、喧嘩なりと仕掛けて来い/\
仁 助 おのれ小びつちよめ、其口止めてこますぞよ
〔ト 納戸より貢出て
貢 是はしたり、何を其様にいふのじや、静かにして下され
仁 助 イヤ婆様、吉五郎めが、おれをばむごう打附さらした故、此様に
いふて居るわいのう
貢 又ほたへが過る故、仕舞にはいさかひが出来るといふもの、吉五
郎、たんなんだがよいわいのう、イヤ何仁助殿、腹も立うが了簡し
て下され、私が誤り升るわいのう仁「仕方がない、婆様の挨拶故、
了簡してやるわい
貢 忝なう厶るわいのう
太郎助 時に往て仕事をば仕て仕舞はうではあるまいか
又 作 ヲヽ夫がよい/\
仁 助 此返報待てけつかれよ
皆 々 よいわい行け/\
〔ト 橋掛りへ這入る
吉五郎 おのれ其口止めてこます
〔ト 走り出るを
貢 コリヤ待ちや、おのれはなア○今日迄心任せに育てたが、あると
あらゆる悪党の仕次第、コレ迚も悪党するならば、父御の無念を受
難で武士にならうとは、なぜ望まぬ、言甲斐もない、其方はなア
吉五郎 コレ母者人、そんなら私は侍の子じやといはんすか
貢 ヲヽ父御は今川家の大忠臣、伊藤伊予守殿、其方の幼名伊賀之助、
今川家滅亡してより、此八坂へ身を忍び、吉五郎と呼び、成人させ、
父の無念を晴させんと思へとも、其心では思ひも寄らず○
〔ト 位牌を取て来て
貢 其方の様な不所存者、親子の縁を切た徴し、父御の位牌で斯う/\
/\○きり/\此家を出て行きやれ
〔ト 奥へ這入る
吉五郎 フム○今の今迄おれが身は、町人の胤と思ひしが、今母者人の物
語では由緒ある武士の忰、コリヤ分別をせにやならぬわい
〔ト どろ/\になり、上手の切穴より大きなる蛙をせり上る
伊予守 忰々、伊賀之助/\
吉五郎 扨こそ怪しき
〔ト 出刃包丁を持て突かゝらうとしてたじろく、是にて蛙割れると、
中より伊予守、白の陣立にて出て
伊予守 愚かや忰○某こそは先年桶狭間の戦ひに、無念の打死致したる、
伊藤伊予守が無念の魂魄
吉五郎 ヤ何と
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「大塩噂聞書」
(摘要)
誂(あつ)らへ
厶(ござ)る
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