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弓太郎 モシ、伯父さま、なぜ母様を叱らしやる、モウ堪忍して上げて被
下いのう、夫共母様を叩くのから、其代りにぼんを叩て被下いのう
お 勇 ヲヽ能ういふてたもつたのう、仮令母はどうなるとも、何の其方
に棒一つ当さゝうか、サア、お疑ひがあるなれば、妾を勝手に被成
升せ
又兵衛 ヤア、しぶとい女郎め、水責の用意致せ
伊賀守 ヤレ待て、又兵衛、某、工風を以て白状致させん、何高橋、召捕
置きし女引出せ
高 橋 ハアヽ
〔ト 上手へ這入る
又兵衛 コリヤお勇、今白状をさせて見せる、待ておれ
浄るり 無残なるかや峯が身は、昨日に変る飛鳥川、罪なき淵に沈み行く、
水の哀れや三平も、共に棚む憂涙、今日ぞ散りなん風情にて、足の
踏度も定めなく、白洲にこそは引すへる、お勇は見るより
お 勇 其方は三平
お 次 お峰殿
弓太郎 ヤ、三平か
浄るり 走寄る稚子、支へる高橋、二人は寄らんと思へども、身は儘なら
ぬ縛り縄、泣より外の事ぞなき、三平は、顔を上げ
三 平 奥様、浅猿いお身におなり被成升たなア
お 峯 弓太郎様にも御無事なお顔を見升た嬉しさ、囚はれとなりしより、
旦那様のお行衛を白状せいと毎日の責め○
浄るり 仮令此身はひしびしつ、責め折檻に会ふとても、
お 峯 知らぬ事はどう白状が仕られ升せう
浄るり 本に難而、殿様と身を打伏して泣居たる
お 勇 ヲヽ道理じやわいのう、私さへ知らぬ夫の行衛、何のこなたが知
つてよいものかいのう
お 次 どうぞお峯殿をお赦しあつて、其代りに私を拷問被成て被下升せ
お 峯 エヽ申、勿体ない、私が身に代つてやらうとのお詞は、死んでも
忘れは致し升せぬ
浄るり と手を合はさねど詫涙、高橋はとがり声
高 橋 此上にも白状せねば、どいつこいつの用捨はないぞ
又兵衛 サア早く白状致せ
三平・お峯 夫じやといふて知らぬ事が
又兵衛 ぬかさにや爰にて拷問せうか
両 人 サア夫は
高 橋 白状するか
四 人 サア/\/\
敵二人 此上は寧そ手短かに
伊賀守 コリヤ/\、両人、白状致さす仕様は様々、先其忰を打すへい
両 人 畏り升た
浄るり 畏つたと両人が、かよはき稚子鷲掴み、見るに母は堪り兼
お 勇 アヽ、コレ/\此余丈けない者を拷問とは、お情ない、其子の代
りに私をお叩き被成て被下升せ
お 峯 何の因果で此命が早う終らぬ事かいなア、早う、死たい/\わい
なア
浄るり 叶はぬ手先で稚子をかき寄せ/\、抱きしめ、天を白眼で血の涙、
シヤ面倒なと、両人が白洲に引すへ打たゝけば
弓太郎 アヽ痛いわいのう
高 橋 白状せねば斯う/\/\
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「大塩噂聞書」
(摘要)
浅猿(あさまし)い
寧(いっ)そ
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