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浄るり 情用捨も荒男が、しもとの下に苦しむ稚子見るに、三平堪らへ兼
三 平 アヽモシ、暫らくお待被成て被下升せ
高 橋 ヤイ三平、今弓太郎の拷問を止めるからは
両 人 白状致す心なるか
三 平 是迄日毎の拷問に、肉は破れ、骨も砕くる苦しさも、此身一つに
堪らへ升れど、目の前主人の和子様が責苦にお逢ひ被成升るを、ど
うマア堪らへておられ升せう
伊賀守 フム、白状致せば拷問を致すに及ばず、シテ大塩親子は何れにお
るか
三 平 主人御親子に於升ては、彼騒動の其砌り、尼ケ崎迄落延びしが、
旦那様には、和子様始め奥様方の御身を案じ、私をば彼地よりお帰
し被成し其時に、落着く先をおき申せど、只九州路と斗りにて、夫
が主従別れのお詞、私さへも存じ升せねば、仮令如何程責るとも、
奥様始め彼方がたには、猶以て知らぬ事に厶り升る
伊賀守 ヤア、白状と申故、慥な事をほざくかと思へば、不分明なる申分
○此上は三平めを天秤にかけ、まつた峯めに水くらはせ
両 人 畏つて厶り升る
浄るり 心得升たと二人の下知、ハツと立寄る牛頭馬頭が、情用捨も荒縄
にくゝる梯子の水責は、此世からなる呵責の苦しみ、業の秤に引替
へて、畚に入れたる幼子の、罪の重しを天秤に、かける姿を見るよ
りも、ノウ悲しやと駈寄れば、中を隔つる獄卒共、てんでに叩く割
竹の、音にも聞かぬ拷問に、二人は次第に身にこたへ
伊賀守 ヤア返す/\も憎い奴、其小忰を打すへい
両 人 心得升た
弓太郎 痛いわいのう/\
〔ト お勇、お峯、見兼ねて
お 勇 我子の苦痛を見んよりも
両 人 コリヤモウ寧そ
〔ト いひかけるを
三 平 アヽモシ、奥様、お峯様、和子の責苦に堪へ兼ねて、女子の浅い
お心から血迷ふたので厶り升るか、和子様さへあの苦痛をお堪らへ
遊ばし、知らぬものは知らぬとおつしやるでは厶り升せぬか、必ら
ず麁相を被成升るな
伊賀守 此上は是非に及ばぬ、其小忰の背中を断割り、鉛の熱湯、ソレ両
人
両 人 畏つて厶り升る
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)り
畚(もっこ)
寧(いっそ)そ
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