浄るり 既に斯うよと見へたる所へ
内 山 待うぞ/\○
〔ト 御書を懐に入れ出て
内 山 ヤア、ぎやう/\しい、両人扣へおらう
又兵衛 貴殿は内山彦次郎殿
内 山 今日の内山は私ならず、山城守が名代たる拙者が役目
伊賀守 相役跡部殿の名代とあるからは、先々是へ
内 山 御列座、御免下され
〔ト 居直る
伊賀守 今日、跡部殿急病にて引籠らるゝ故、色々いたはり吟味致せども、
中々白状致さぬ故、只今拷問致す所で厶る
内 山 夫は御苦労千万に存じ升る、只今あれにて承はれば、弓太郎の背
中を割て、鉛の熱湯の拷問の由、お差図相違致して厶らう
伊賀守 黙れ内山、摂津の政事を預り奉る堀伊賀守、反逆人の有家白状さ
せるに、何故お差図が相違致した
内 山 相違の子細申上げん○じたい大塩平八郎を反逆人と唱へる謂れ曾
てなし、夫大塩の所存の程は、万民の困窮を悲しみ、何卒施行致さ
んと日外欠所金、まつたお蔵米借用の義訴へ出たる所、御聞済なき
故、御部下の町人へ金子借用申入れしに、是とても聞入れねば、無
拠市中の焼失は、是天のなす所、彼乱暴の惣大将は今川弓太郎なら
ずや、左すれば平八、反逆人の張本と申謂れあるべきや、其張本た
る弓太郎を目前に置きながら、反逆人の張本の吟味致すが、相違の
一つ
三 人 ヤ
内 山 其大切なる天下の科人、棟梁たる弓太郎を類ひ稀なる拷問にかけ、
若し弓太郎が相果なば、如何致して鎌倉殿へ申訳の召さるゝぞ
伊賀守 サア、其申訳けは
内 山 弓太郎の外、張本が厶るか
伊賀守 サア
内 山 両人共に返答あるか
四 人 サア/\/\
内 山 両人扣へい
二 人 ハア
内 山 伊賀守殿、如何で厶る
伊賀守 中々潔白な義で厶る○シテ彼等が落着はな
内 山 ハアヽ、恐れながら○
〔ト 御書を渡す、伊賀守披き
伊賀守 スリヤ三平めは磔の刑に行ひ、外の者共は遠嶋とな
内 山 左様で厶る
伊賀守 ハテなア
又兵衛 アヽイヤ未だ大塩が有家相知れざるに、妻子共の落着の義は如何
と存じられ升る
高 橋 併し内山公には、大塩が有家御存じで
両 人 厶り升るかな
内 山 如何にも
女皆々 エヽ
両 人 シテ大塩の有家と申すは
内 山 大塩が有家は日本国中
両 人 何と
内 山 凡日本広しと雖ども、鎌倉殿の残らず旗下、鎌倉殿の御威勢にて、
即座に召捕り御覧に入れん○コリヤ其方共、承はれ、此度平八郎の
挙動、重罪人の妻子なれば、重き刑罰にもなるべき所、御憐愍を以
て、弓太郎、勇、次は隠岐の国へ遠嶋たるべし
お勇・お次 スリヤ私共は遠嶋で厶り升るか
内 山 まつた峯、其方は豆州大嶋へ遠嶋申附るぞ
お 峯 有難う存じ升る
内 山 三平には、主人大塩へ加担なしたる科に因て、磔の刑罰に申附る
ぞ
三 平 ハツ、元より覚悟の義に厶り升れば、有難くお受け致すで厶り升
せう
お 勇 只此上のお願ひは
お 峯 せめて此世の生別れに、兄弟
三 平 主従共に暇乞のお許しをば
四 人 偏にお願ひ申升る
内 山 罪極まりし科人へ、暇乞は天下の法度
四 人 スリヤお願ひは叶ひ升せぬか
内 山 なれども遠嶋の出船は、則明日、今夜は揚り屋へ入れ置けば、暇
乞を致さうとも、其義は我々存ぜぬ事
お 峯 お情厚き其お詞
四 人 有難う存じ升る
伊賀守 然らば彼等を揚り屋へ
内 山 今宵一夜は役目の情
四 人 何から何迄
〔ト 息込む
内 山 ハテ、慈悲は天下の○
〔ト 袖を返すが、木の頭
内 山 宝で厶る
四ケ所 立う
〔ト 此仕組宜しく時太鼓にて幕
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