重 扇助 『演劇脚本摘要録 第1』中西貞行 1895 所収
本文は、適宜読点を入れています。
二幕目 |
十作の妹お菊と女房お慶、仕事して居る所へ、庄屋五郎作来り、十作は、モウ七日になるにまだ戻らぬかと問ひ、八坂のかたりの浪人を搦捕つて出せば、褒美の金を下さると告げ、又お菊を息子の嫁に欲しいといひて帰る、馬士鹿蔵来つて、又十作は戻つたかと問ひ、お菊を貰ふ話の埒を明けて貰ひたいといふを、お慶は、鹿蔵を奥へ連れ、返事を待たせる、馬士八八来り、お菊に恋慕を仕かけるを、吉五郎窺居て、八八を投退け、間男なり、といひ、自分がお菊の許嫁の夫トと名乗る、八八は、争へず帰る、吉五郎は、お菊を連れて往き、女房にするといふ所へ、鹿蔵出て来り、両人にてお菊を言争ふ、お慶は、両方共顔の捨らぬ返事を後方迄にせん迚、鹿蔵を納戸へ、吉五郎を上手の家体へやる、お菊、お慶は、鹿蔵と吉五郎の心底を思案する事、五郎作と八八は、忍んで窺ふ、あなたの座敷に吉五郎位牌を出し、母の命日を吊ふ、こなたの座敷より鹿蔵出て、お菊の札があつちへ落ちはせぬかとあなたの座敷の障子を覗く、是より吉五郎とお菊の事を言争ひ、終に立廻り、吉五郎の力に感じ、仲間入りをして、吉五郎は幻の吉五郎と名乗る、お慶出て、今こそ妹を嫁入らすとて、系図を吉五郎に渡し、姉なりと名乗り、自害して、此自害こそ鹿蔵へ嫁入らす妨なりとて、吉五郎を見遁かしくれよと頼む、お慶は、妹は縁を切り、兼て訳ある同村の五郎吉へ嫁入らしたと語り、息絶える、五郎作、八八出て来るを両人にて殺し去る事、
宇津木矩之丞、焚火に当り居る所へ、吉五郎、鹿蔵も亦来り、当る矩之丞は武芸修行に廻国なし、未だ主人と頼むべき人なき故、是より東国へ行く所なり、と語る、両人別れ行うとするを捕手二人かゝる、吉五郎は捕手を切り、鹿蔵は捕手を投退ける事、
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