河村与一郎「警世矯俗大塩平八郎伝」14

Я［大塩の乱資料館］Я
2011.1.21

『警世矯俗大塩平八郎伝』
その１４
河村与一郎(貞山)

赤志忠雅堂 1888

◇禁転載◇

　　　　　　　ﾔｻｶｼﾀ　　　　　　　　　　　　　ﾗｳﾆﾝ　　　ｶﾗ文政ノ末、京都八阪下ニ水野軍記卜云ヘル唐津ノ退糧人アリ、陽　　　　　　　　　　ﾋｿハラニ稲荷神ヲ祀リ、陰カニ切支丹宗ヲ行ナヒ、種々ノ妖術ヲ以　　　ｱｻﾞﾑ　　　　　　　　　　　　　　　ｶｳｹﾞﾝﾋヾｷテ愚民ヲ誑キ、吉凶ヲ判シ、疾病ヲ祈ルニ、其効験響ノ音ニ応ズ　　　ｹｲｼﾞﾝｴｷｿｳｶｳｸﾜ　　　　　　ﾖｳﾌル如ク、詣人繹騒香火日ニ盛ナリ、傭夫八兵衛ナル者、其近隣ニ住ミ、夫妻日夜軍記ノ家ニ使役トナリシカ、一日八兵衛家ヲ出テヽ、　ﾕ　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾓﾄ其之クトコロヲ知ラズ、妻憂愁シテ八方ニ索ムレドモ、絶テ其音　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾂヽｶﾞ信ナケレバ、泣テ其由ヲ軍記ニ訴へ、其身恙ナキ祷ヲ乞フ、軍記乃チ妻卜倶ニ神前ユ修法スルコト七日、祭訖テ軍記其妻ニ謂テ曰、ｲﾀﾏ　　　　　　　　　　　　ﾅ痛シキ哉、汝ノ夫、今ハ此世ニキ身トナレリ、死者ハ再ビ帰ラズ、生者ハ必ズ滅ス、悲嘆ヲ休メテ生涯ノ計ヲ為スヘシ、我レモ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｱｲｾｷ　　ﾑ汝ノ労ヲ助ケント懇ロニ言、慰サメケレバ、妻ハ只管哀戚シ、夢ﾋﾞ寐ニナリトモ、今一回夫ノ霊ニ逢ハセタマヘト、狂人ノ如ク乱レ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｷﾞﾔｳﾘｷケレバ、軍記、今ハ止ムコトヲ得ズ、サラバ我カ行力ヲ以テ死者　　　　　　　ｺﾚ　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾓﾗニ遇シムヘシ、箇ハ、此レ秘密ノ法ナレバ、ユメ／＼他ニ洩スベ　　　　　　　　　　　　ﾐﾂｼﾂ　　　　　　ﾓｸﾄｳカラズト、固ク誓ヲ交へ、密室ニ入テ暫ラク黙祷セシガ、怪シム　　　　　　　　　ﾊｳﾎﾂベシ、八兵衛ノ形、髣髴トシテ妻ノ面前ニ現ハレ、我レ不幸ニシ　　　　　　　　　　ﾒｲﾌテ人間ヲ辞シ、今已ニ冥府ニ入レリ、我ラ在ラザレバ、汝、朝夕ノ生計尽ベシ、今ヨリ当家ノ先生ヲ師父ト仰キ、真実ノ霊法ヲ学　　　　ﾅﾗｸビ、我ヲ奈落ヨリ救出スベシ、サラバ其功力ニ頼リ、我ハ速ヤカ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｺﾂｴﾝニ生ヲ天堂ニ転ジ、悪道ノ苦ヲ免ガルベシト、言終テ忽焉ト其姿　　　　　　　　　　ﾊﾂｺﾞハ失ニケル、妻ハ大ニ発悟シテ、其日ヨリ軍記ノ弟子トナリ、血ｽヽﾒ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｸﾜﾝｽｲヲ軟テ誓ヲ作シ、一心不乱ノ行者トナリ、夜ハ髪ヲ解テ潅水シ、　　　　　ﾍﾝﾚｷ　　ｶﾝｸ　ﾅ　　　　　　　　　　　ｼｹﾂ　ｿヽ深山幽谷ヲ遍歴シテ艱苦ヲ嘗メ、昼ハ天帝ノ画像ニ指血ヲ濺ギ、　　　　　　　　ｺﾝｷ　　　　　　　　　　　　　　　　　ｻﾂﾞ五体ヲ地ニ役ジテ悃祈ナシケレバ、軍記ハ其秘法密伝ヲ悉ク授ケ、今ハ如意満足シテ欲シ求ムル所、悉ク其手ニ聚マラサルナシ、此　　　　　　　ﾐﾂｷﾞ　　　　　　　　　　　　　ﾅﾏﾂﾞヨリ名ヲハ豊田貢或云、貢ハ本ト山城国八幡山下生津宿ノ妓ナ　　　　　　　　　　　　　　ｱｶﾞリシガ、淀藩ノ足軽某ニ、自ヲ購ナハレテ、其婦トナレリ、某死後京都ニ赴キ、妖術ヲ行ナフト云、実否詳ナラズト改タメ、軍　　　　　　　マス／＼メイモウ　　　　　センワク　　　　　　　　　　リヤクダツ記ト居ヲ同クシ、益迷蒙セル者ヲ煽惑シテ、貸財ヲ掠奪シ、数年ヲ送ル内、軍記病死シ、今ハ憚カル所ナク、欺取タル金銭ヲ散シ、　　　　　　　　　　　　ｷｴｼﾔ　　　　ｸﾞﾝｿｳ　ｴﾝﾄﾞｸ次第ニ門徒ヲ引込ケル故、帰依者、日夜ニ群叢シ、焔毒京阪ノ間　ﾏﾝｴﾝニ蔓延セリ、

幸田成友『大塩平八郎』その２２

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『警世矯俗 大塩平八郎伝』 その１４ 河村与一郎(貞山)

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その１４
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