河村与一郎「警世矯俗大塩平八郎伝」15

Я［大塩の乱資料館］Я
2011.1.23

『警世矯俗大塩平八郎伝』
その１５
河村与一郎(貞山)

赤志忠雅堂 1888

◇禁転載◇

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｳｶヾ時ニ天満六丁目ニ太黒屋ト呼ヘル商家アリ、一夜盗賊其家ヲヒ、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾄｳﾛ穴蔵ニ入ル、一家ノ者、之ヲ発覚シテ、其逃路ヲ塞ギ、町奉行所　　　　　　　　　　　　　ﾊﾞｸﾁ　　　　　ﾎｼﾕニ訴へシカバ、平八郎、之ヲ縛致シ、其状ヲ捕手ニ聞テ、深ク怪　　　　　　　　　　ｱﾅｸﾞﾗシミ、以為ラク、堅固ノ窖へ容易ニ入リシハ、是レ尋常ノ盗ニ非　　　ｹﾞﾝｼﾞﾕﾂ　　　　　　　　　　　ｶﾞｳｼﾞﾝズ、必ス幻術邪法ヲ行フ徒ナラメト、数日拷訊ニ及ビケレバ、賊　　　ﾀ苦痛ニ堪へズ、切支丹党貢ノ門徒タル旨ヲ白状ニ及ビケレバ、平　　　　　　　　　ｹｲ八郎、即日山城守ニ啓シ、偽テ淡州稲田ノ家臣真鍋平八郎実家の　　　　　　　　ｷｾｲ姓某眼疾ニ因テ、祈請ヲ乞フ者ト称シ、其身ハ貢ノ家ニ寄寓シ、　　　　　　　　　　ｻﾝﾁ　　　　　　ｵｺ　　　　ｼﾞﾔｳ捕数人ヲ近側ノ家ニ散置シ、日夜信心懈タラサル状ヲ示ス、貢以テ疑ハズ、勧メテ其門ニ入ラシム、平八郎、唯々トシテ、眼病ｲﾍ　　　　　　　　　　　　　　ｲﾂｼｳｶﾝ痊テ後必ズ信徒ニ入ラント誓ヒ、一週間ヲ送レル間ニ、其寄術妖　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｱﾝｷ教ヲ熟見シ、又詣人信者ノ居所姓名ヲ悉ク暗記スルヲ得タレバ、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾀﾞﾂﾄ今ハノ疑ナキ邪教ナルヲ信ジ、或時貢ガ虚ヲ伺ヒ、其勢脱兎ノ如　　ﾁﾞﾔｳｲ　　　　　　　　ﾊｳｷﾝ　　ｹﾀﾎ　　　　ｿｸﾊﾞｸ　ｶﾞｳﾃｷク、諚意ト呼ハリ、其後ヨリ抱緊シ、蹴倒シテ之ヲ束縛シ、号笛ヲ鳴シテ捕ヲ合セ、四方ニ散シテ其徒ヲ執ヘシム、同時縛ニ就　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾍﾞﾝﾎﾞｸｶｳｶ　　　ｼﾞﾝｷｸク者二十余人、直チニ之ヲ大阪ニ押送シ、鞭朴交下シ、万方訊鞫　　　　　　　ｺｳﾍﾞﾝ　　　ｼﾕﾌｸ　　　　　　　　　　　ｺヽﾉｿﾞスレドモ、彼レ抗弁強争シテ首服セズ、最後平八郎、迺チ焉ニ莅　　　ﾎｺｻｷ　　ﾘ　ｻ　　　　ﾅﾁﾞ　　　　　　　　ｼｺﾞミ、雄弁鋒ノ如ク理ヲ析キ、之ヲ詰リケレバ、貢、遂ニ支吾スル　　　　ｼﾝﾓｸ　　　　　　　　　　　　ｷｸｷｳ　　　　　　ﾋﾗ能ハズ、瞋目シテ、罵テ曰ク、積年尽力鞠躬シテ、宗門ヲ闡カン　　　　　　　　　　　　　　　ｷﾞﾍﾝ　　　　ヰコンハラワタ　タトセシニ、其詮モナク、汝ニ十分偽騙セラレ、遺恨腸ヲ断ツ如シト、平八郎、叱シテ曰、大逆不赦ノ国賊、自ラ其罪ヲ責メズ、恣　　　　　　ﾊﾞﾘ　　ﾌﾞｼﾞﾔｳ　　　　　ｵﾄﾞ　　　ヱンママニ官吏ヲ罵詈ス、無状甚シト、身ヲ躍ラシテ、椽ヲ下リ、扇　　　　　　　　ﾂｷ　　　　　　　　ｿｿｳヲ以テ痛ク其眼ヲ橦ケレバ、貢、大ニ沮喪シ、其後ハ一言ヲ発セ　　　　ｶｸ　　　　　　　　　　　　　　　　ﾀｶﾊﾗ　　　　　ﾀｸザリキ、斯テ罪某定マリ、三郷市中ヲ引渡シ、高原ノ刑場ニテ磔トナル、貢、刑ニ臨ミ、罵狂ヒ、見ヨヤ汝平八郎、怨ミノ廻報ハﾏｺﾄ　　　　　　　　ｷﾉｽﾍ　ｱ　　　　　　　　ﾐﾅｺﾞﾛｼ真箇ノ如ク、汝モ亦、木抄ニ登ゲ、一家ノ者トモ皆殺ニセント、ｷｳｾｲｼﾃﾂ　　　　ﾓｳｺﾂ　ｿｳﾄﾞｳ声四徹シ、人ノ毛骨ヲ聳動セシム、其徒五人ノ男女同刑ニ処セラレ、親族五十六人、永牢トナル、而シテ水野軍記ハ首犯タルヲ　　　　　　ﾊｷ　　　　　ｻﾗ　　　　　　　　ﾎﾞﾂﾆﾌ以テ、墳墓ヲ破毀シ、尸骸ヲ暴スコト三日、後日没入セル妖書ヲｹﾝ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｲﾂﾃｲセルニ、皆陰語ヲ以テ記載セル者ナルヲ以テ奉行始メ諸人一丁　　ｶｲ　　　　　　　　　　　　ﾗｳﾄﾞｸヲモ解スル能ハズ、独リ平八郎ハ朗読一遍、悉ク其義ヲ解下スニ、　　　ｼｳｼﾞﾕｸ素ヨリ習熟セル者ノ如シ、時人嘆服シテ、神明ト称ス、時ニ文政十二年十二月ノ事ナリキ、

『浮世の有様』「文政十二年切支丹始末

『警世矯俗大塩平八郎伝』目次/その１４/その１６

大塩の乱関係論文集目次

玄関へ

『警世矯俗 大塩平八郎伝』 その１５ 河村与一郎(貞山)

『警世矯俗大塩平八郎伝』
その１５
河村与一郎(貞山)