Я[大塩の乱 資料館]Я
2006.8.21

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大 塩 平 八 郎 』 その118

幸田成友著(1873〜1954)

東亜堂書房 1910

◇禁転載◇


 第三章 乱魁
  三 反忠 (3)
 改 訂 版


吉見九郎右
衛門の密訴















河合郷左衛
門出奔

九郎右衛門も助次郎同様山城守の処置に対し、少からず不快であ つた所へ、平八郎から一味徒党の勧誘を受け、去年十月異議なく 同意に及び、郷左衛門と共に砲車三輌の誂方に奔走した位である、 然るに同人の訴状には「実心不同意勿論」とか、「其場を飾り尤 之言葉を合申答」とか、「右体之企実心決而同意不仕」とか麗々 しく書いてあるのみならず、平八郎の不倫一件を掲げ、「俗人に も相劣り候不埒の儀」と罵つてあるが、決して左様とは思はれぬ、 彼は連判の当時病気引籠中であつたが、其後良左衛門へ面会した 折、自分は病気で一大事には随身致しかぬる故、自殺して同志へ 御断をすると言つたは、表面から見れば甚だ潔いが、実は加盟を 脱しやうとする臆病心から起つたことで、正月二十七日郷左衛門 が三男謹之助を連れて出奔したは、彼が平八郎から何か密談を受 けた時返答が渋り、傍に有合せた棒火矢で打擲された為と聞き、 愈々反忠の決心を固めたのであつた、二月十三日平八郎の用事で 外出の途中に立寄つた忰英太郎の話によると、異変の暴発を近々 らしく思はれるので、父は莫大の御恩沢を忘れ、暫時ながらも謀 叛に加担したは恐入つた次第である、天罰の程恐しく存じて改心 した上は、汝は八十次郎と相談の上、証拠物となるべきものを竊 出し、其他何事によらず見聞次第早速内通せよと言含め、英太郎 帰塾後大略今回の顛末を書記し、我子より一左右あり次第直に出 訴しやうとの心構であつた、

 九郎右衛門も助次郎同様山城守の態度に対し、少からず不快を 懐いて居る所へ、平八郎から一味徒党の勧誘を受け、異議なく同 意に及び、郷左衛門と共に砲車三輌の注文方に奔走した位である。 然るに同人の訴状には「実心不同意勿論」とか、「其場を飾り尤 之言葉を合」とか、「右体之企実心決而同意不仕」とか麗々しく 書いてあるが、若し最初から反対なら、敢然死を以て平八郎を諌 むべきではないか。彼は連判の当時病気引籠中で、その後良左衛 門へ面会した折、自分は病気で一大事には随身致しかねる故、自 殺して同志へ謝すると言つたは、表面から見れば甚だ潔いやうだ が、実は加盟を脱しようとする臆病心から起つたことであらう。 彼は郷左衛門が平八郎から何か密談を受けた時、返答に渋り、傍 に有合せた棒火矢で打擲され、正月二十七日三男謹之助を連れて 出奔したと聞き、郷左衛門に同情してゐる。それから二月十三日 平八郎の用事で外出の途中に立寄つた忰英太郎の話により、九郎 右衛門は異変の暴発を近々らしく感じ、汝は郷左衛門の忰八十次 郎と相談の上、証拠物となるべきものを持参せよ、また異変の儀 見聞次第早速内通せよと言含めて帰塾せしめた。



「大塩平八郎」目次3/ その117/その119

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ