其三
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第三は高井山城守の命により、淹滞せる訴訟一件を引請けた時、
原告から金銀を入れた菓子箱を贈つて来た、兪々裁決の日に至
り、平八郎は反復丁寧原告に諭してその非を認めしめた後、同
僚に向ひ、諸君は菓子が御嗜好であるによつて訴人より好む所
につけこまれ、従つて訴訟の久しく決せない次第で御座らう、
と例の菓子箱の蓋を明けて一座に見せたといふ事である、賄賂
公行と言つては大袈裟かも知れぬが、随分有勝なことで、当時
の弊風はそれ火事があつたといつて検分に往き、それ変死人怪
我人があつたといつて検使に出ると、必ず其出張先の町から礼
銀を取つたものである、平八郎が金銀入の菓子箱を開いて同僚
を辱しめたのは信じ難いとしても、彼が清廉潔白を以て事に
んだは、如何なる事実が有つたかは分明せぬが、御池通四丁目
播磨屋利八が留守中に持来たりたる肴を其町の年寄に突返し、
今度は内分に仕て遣すが、向後心得違なきやう注意致せとの手
紙―巻端に写真版にして載せてある彼の手簡によつて明白であ
る、
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その五
第五は高井山城守の命により、淹滞せる訴訟一件を引請けた
時、原告から金子を入れた菓子箱を贈つて来た。兪々裁決の日
に至り、平八郎は丁寧反復原告に諭してその非を認めしめた後、
同僚に向ひ、諸君は菓子が御好であるによつて、訴人から好む
所につけこまれ、従つて訴訟の久しく決しない次第で御座らう、
といつて例の菓子箱の蓋を明けて一座に見せたといふ事である。
賄賂公行と言つては大袈裟かも知れぬが、随分有勝なことで、
当時の弊風はそれ火事があつたといつて検分に往き、それ変死
人怪我人がおつたといつて検使に出ると、必ず出張先の町から
礼銀を取つたものである。平八郎が金子入の菓子箱を開いて同
僚に示したは信じ難いとしても、彼が清廉潔白を以て事に ん
だは、如何なる事実が有つたかは分明せぬが、御池通四丁目播
磨屋利八が留守中に持参した肴をその町の年寄に返し、今度は
内分に仕て遣はすが、向後心得違なきやう注意致せとの添手紙
を送つたによつて明白である。
此肴を播磨屋利八と申ものより、此方留守中持参、
さし置帰侯。不埒の事に候へ共不弁故の儀と被推
候間、丁内へさし戻し遣候條、心得違無之様申渡
し置可申、此度は内分にて右様取計遣し候事
大塩平八郎
御池通四丁目年寄へ
(大阪亀岡高胤氏蔵)
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