Я[大塩の乱 資料館]Я
2005.2.20

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大 塩 平 八 郎 』 その24

幸田成友著(1873〜1954)

東亜堂書房 1910

◇禁転載◇


 第一章 与力
  二 三大功績 上 (13)
 改 訂 版

城代定番加
番大番













蔵役人













四ケ所

大阪城の守備としては城代・定番・加番、是等は小いながら大 名であつて、銘々若干の家来を有して居るのみならず、定番に は配下の与力同心あり、大番と称して毎年江戸から来る旗本も あるが、其職務とする所は皆大阪城の警衛であつて、三郷市民 と豪も関係は無い、城中の軽輩が無銭で芝居小見世物を見物し、 木戸番と悶着を引起したり、俗にもう六といふ仲間小者の類が サシ 緡を町家に押売したりする位で、武士と町人の関係は無い、又 蔵屋敷には留守居を始として役人がそれ\゛/居るが、之は自      クラモノ 国の物産を蔵物として売捌き、又それを抵当として出入町人よ り金を借出すのが職務で、要するに武士の町人である、用談と 称しては出入町人を招いたり、出入町人に招かれたりして、馴 染の茶屋で酒を飲み、其間に貸借の相談を為るのであるから、 一般市民とは何等の閲係も無い、されば下は掏摸白ゆもじの取 締より上は社寺・土木・触書発布に至るまで、各方面に渉つて 実権を掌握した与力同心の威権は驚くべきもので、従つて与力 同心の出役に件ふ四ケ所の者共も、虎の威を仮る狐の如く、黠 しげなる眼を以て非違を発いた、四ケ所といふは天満・天王寺・ トビタ 鳶田・千日前以上四ケ所に住する一種の部落で、略して四ケと もいひ、伝説には関ケ原役に徳川方に打敗けた諸侯の家臣であ                 チヤウリ      コガシラ るといふが正確とは思へぬ、頭分を長吏といひ、その下に小頭 ワカキモノ 若者等があつて、与力同心の手先を勤め、一方にはまた銘々受持 の町内があつて、其町内に冠婚喪祭等があれば、それに乗じて金 銭酒食を強請する非人乞食の類を追払ふ役をする、明治維新に為 つてから長吏を一時非人年寄と改称したのも之が為で、而して非 人追払の報酬としては毎年々末に四ケ所から町中に印刷物を廻し て金銭を集める、その板木は四ケ所から一部分づゝ持寄つて漸く 一枚の完全なる板木となるので、節季候・鳥追・大黒舞といふ名 儀の下に、町中の家持から心附を得るのである、四ケ所を使役す るは掏摸盗賊の類を検挙するには都合がよいが、翻つて考ふれば 是等のと悪漢と狎れ易い位置に居る者共であるし、又町家に対し     コハモテ ては随分強持の方であつたらしい、

大阪城の守備としては城代・定番・加番、是等は小さいながら大 名であつて、銘々若干の家来を有して居るのみならず、定番には 配下の与力同心あり、大番と称して毎年江戸から来る旗本もある が、職務とする所は皆大阪城の警衛であつて、三郷市民と豪も関 係は無い。城中の軽輩が無銭で芝居小見世物を見物し、木戸番と                         サシ 悶着を引起したり、俗にもう六といふ仲間小者の類が緡を町家に 押売したりする位であつた。また蔵屋敷には留守居を始として役                    クラモノ 人がそれ\゛/居るが、之は自国の物産を蔵物として売捌き、又 それを抵当として出入町人より金を借出すのが職務で、要するに 武士の町人である。用談と称しては出入町人を招いたり、出入町 人に招かれたりして、馴染の茶屋で酒を飲み、その間に貸借の相 談を為るので、一般市民とは何等の閲係も無い。されば下は掏摸 白ゆもじの取締より上は社寺・土木・触書発布に至るまで、各方 面に亙つて実権を掌握した与力同心の威権は鷲くべきもので、従             シ ショ つて与力同心の出役に件ふ四ケ所の者共も、虎の威を仮る狐の如 く、黠しげなる眼を以て非違を発いた。四ケ所といふは天満・天    トビタ 王寺・鳶田・千日前以上四ケ所に住する一種の部落で、略して四 ケともいひ、伝説には関ケ原役に徳川方に打敗けた諸侯の家臣で                  チヤウリ      コガシラ あるといふが正確とは思へぬ。頭分を長吏といひ、その下に小頭 ワカキモノ 若者等があつて、与力同心の手先を勤め、一方にはまた銘々受持 の町内があつて、その町内に冠婚喪祭等があつた場合、金銭酒食 を強請する非人乞食の類を追払ふ役をする。明治維新に為つてか ら長吏を一時非人年寄と改称したのも之が為で、さうして非人追 払の報酬としては毎年々末に四ケ所から町中に印刷物を廻して金 銭を集める。その板木は四ケ所から一部分づゝ持寄つて漸く一枚             セツキゾロ の完全な板木となるので、節季候・鳥追・大黒舞といふ名儀の下 に、町中の家持から心附を貰ふのである。四ケ所を使役するは掏 摸竊盗の類を検挙するには都合がよいが、翻つて考ふれば彼等は 掏摸竊盗の類と狎れ易い位置に居り、また町家に対しては随分 コハモテ 強持の方であつたらしい。


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