弓削新右衛
門
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西組与力弓削新右衛門は文化十年の役人録に地方役とあるから
には与力中の故老で、之と相通じて悪事を働いた四ケ所は天満
の作兵衛、鳶田の久右衛門、千日の吉五郎、それに新右衛門の
妾の親なる新町の妓楼八百新も加はつてゐる、悪事の遂一は今
明白では無いが、要するに権威を恃んで賄賂を誅求したに相違
なく、一件落着後贓金三千両を取上げて貧民に施したといへば、
大抵驕暴の度も推測し得らるゝに、町奉行乃至同僚等はそれと
知りつゝ手を下すことが出来なかつたらしい、山陽が大塩子起
の尾張に適くを送る序附録(七)に、町奉行の姑息と与力の跋扈
ヘダ
とを述べて、「尹心之を知る、而も主客勢懸てゝ苟傍観し、
吏良ありと雖も、衆寡敵せずして浮沈容を取る而已」とあるの
は能く事情を悉してゐる、新右衛門は高井山城守の組下では無
いが、山城守は見るに見兼ねて糺察方を平八郎に托した、「子
ハカ
起の始め密命を受くるや、自ら度るに事済らば国を補ひ、済ら
ずんば家を破らん、家に一妾あり之を出して累無からしめ、然
して後籌を運し策を決し、親信を指顧し、発摘意外に出で、其
封豕長蛇たる者を斃し、首を駢べて戮に就き、内外股栗す」と、
同じく山陽の序に見えるが、之によると流石の平八郎も必死の
覚悟をしたらしい、
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西組与力弓削新右衛門は文化十年の御役録に地方役とあるか
らには与力中の故老で、之と相通して悪事を働いた四ケ所は天
満の作兵衛、鳶田の久右衛門、千日の吉五郎、それに新右衛門
の妾の親なる新町の妓楼八百新も加はつてゐた。悪事の遂一は
今明白では無いが、要するに権威を恃んで賄賂を誅求したに相
違なく、一件落着後贓金三千両を取上げて貧民に施したといへ
ば、私曲奸邪の度も推測し得られよう。町奉行乃至彼の同僚等
はそれと知りつつ手を下すことが出来なかつたらしい。山陽が
大塩子起――子起は平八郎の字――の尾張に適くを送る序附録
(二)に、町奉行の姑息と与力の跋扈とを述べて、「尹心之を
ヘダ
知る、而も主客勢懸てゝ苟傍観し、吏良ありと雖も、衆寡敵せ
ずして浮沈容を取る而已」とあるのは能く事情を悉してゐる。
新右衛門は高井山城守の組下では無いが、山城守は見るに見兼
ねて糺察方を平八郎に託した。「子起の始め密命を受くるや、
ハカ
自ら度るに事済らば国を補ひ、済らずんば家を破らん。家に一
妾あり、之を出して累無からしめ、然して後籌を運し策を決し、
親信を指頗し、発摘意外に出で、その封豕長蛇たる者を斃し、
首を駢べて戮に就き、内外股栗す」とあるが、之によると流石
の平八郎も必死の覚悟をしたらしい。
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