Я[大塩の乱 資料館]Я
2005.12.26

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大 塩 平 八 郎 』 その72

幸田成友著(1873〜1954)

東亜堂書房 1910

◇禁転載◇


 第二章 学者
  四 授業 (3)
 改 訂 版



入学盟誓 















































鞭朴

それから学生が入学をする時は八ケ條の誓約附録(二一)を要す る、其誓約には凡そ聖賢の道を学んで人たらんとするには、師 弟の名を正さねばならぬ、中斎孤陋寡聞なりと雖も、一日の長 を以てその責に任ずとすれば、師の名を辞することを得ない、 故に入学の当初予め不善に流るゝを防ぐ次第であるとの前書が 添うてゐる、  第一 我門人たる者は忠信を主とし聖学の意を失ふべからず、 若し俗習に率かれ、学業を荒廃し、奸細淫邪に陥ることあらば、         ソレガシ 其家の貧富に応じて某より命ずる経史を購ひ、之を洗心洞に出 して塾生の用に供すること、  第二 躬ら孝弟仁義を行ふを以て問学の要とす、故に小説及 び雑書を読むべからず、若し之を犯せば、少長となく鞭朴若干 を加ふること、  第三 毎日の業は経業を先にし、詩章を後にす、若し此順序 を顛倒せば鞭朴若干を加ふること、  第四 陰に俗輩悪人と交り、登楼飲酒等の放逸を為すを許さ ず。若し一回たりとも之を犯せば、其譴は廃学荒業と同様なる こと、  第五 寄宿中は私に塾を出入するを許さず、若し某に請はず して擅に出づる者あらば、帰省といふとも赦し難く、鞭朴若干 を加ふること、  第六 家事に変故ある時は必ず某に相談あるべきこと、  第七 喪祭嫁娶其他の諸吉凶は必ず某に申告あるべきこと、  第八 公罪を犯す時は親族と雖も掩護せずして之を官に告 ぐへきこと、 此盟約は師弟の名分を明にするを主眼とし、子弟の父兄と師家 との関係を密接にし、また違犯者の制裁を定めたもので、吉見 九郎右衛門の訴状附録(二四)に中斎は意念の不正を懲すため、 長幼の差別なく折々杖を以て打擲したとあるから鞭朴若干とあ るのは実際に行つたのである、洗心洞へ入門を請ふと、「入 吾門学道、以忠信不欺為主本」、これが陽明先生の語じや、我 塾へ来て不忠不信の行があつたり、人を欺く様なことがあれば、 手打に致すが、それを承知とあらば来い、已に御門下に列した 上は固より覚悟致して居ります、それなら居れという風で皆顫 へ上つたといふが、如何にもさうあつたらうと思はれる、入塾 生は夜中必ず一度は中斎の点検を承ける、勿論何時といふ極は なく、中斎の見廻があると、直ちに起上り袴をつけて挨拶をす る、寝様の不行儀な者は厳敷叱られたといふことだ。

それから学生が入学をする時は八ケ條の誓約を要する、誓約に は凡そ聖賢の道を学んで人たらんとするには、師弟の名を正さ ねばならぬ。中斎孤陋寡聞なりと雖も、一日の長を以てその責 に任ずとすれば、師の名を辞することを得ない。故に入学の当 初予め不善に流るゝを防ぐ次第であるとの前書が添うてゐる。  第一 我門人たる者は忠信を主とし聖学の意を失ふべからず、       シタガ  若し俗習に率ひ、学業を荒廃し、奸細淫邪に陥ることあらば、            ソレガシ  その家の貧富に応じて某より命ずる経史を購ひ、之を洗心洞  に出して塾生の用に供すること。  第二 躬ら孝弟仁義を行ふを以て問学の要とす。故に小説及  び雑書を読むべからず。若し之を犯せば、少長となく鞭朴若  干を加ふること。  第三 毎日の業は経業を先にし、詩章を後にす。若しこの順  序を顛倒せば鞭朴若干を加ふること。  第四 陰に俗輩悪人と交り、登楼飲酒等の放逸を為すを許さ  ず。若し一回たりとも之を犯せば、その譴は廃学荒業と同様  なること。  第五 寄宿中は私に塾を出入するを許さず。若し某に請はず  して擅に出づる者あらば、帰省といふとも赦し難く、鞭朴若  干を加ふること。  第六 家事に変故ある時は必ず某に相談あるべきこと。  第七 喪祭嫁娶及び諸吉凶は必ず某に申告あるべきこと。  第八 公罪を犯す時は親族と雖も掩護せず、之を官に告げて  その処置に任ずべきこと。  この盟約は師弟の名分を明らかにするを主眼とし、子弟の父 兄と師家との関係を密接にし、また違犯者の制裁を定めたもの である。吉見九部右衛門の訴状に中斎は意念の不正を懲すため、 長幼の差別なく折々杖を以て打擲したとあるから鞭朴若干とあ るのは実際に行つたと見える。洗心洞へ入門を請ふと、「入吾 門学道、以忠信不欺為主本、これが陽明先生の語じや。我塾へ 来て不忠不信の行があつたり、人を欺く様なことがあれば、手 打に致すが、それを承知とあらば来い。」「已に御門下に列し た上は固より覚悟致して居ります。」「それなら居れ。」とい う風で皆顫へ上つたといふが、如何にもさうあつたらうと思は れる、入塾生は夜中必ず一度は中斎の点検を承れる。勿論何時 といふ定はなく、中斎の見廻があると、直ちに起上り袴をつけ て挨拶をする。寝様の不行儀な者は厳敷叱られたといふことだ。


井上哲次郎「大塩中斎」 その15


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