Я[大塩の乱 資料館]Я
2006.4.24

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大 塩 平 八 郎 』 その98

幸田成友著(1873〜1954)

東亜堂書房 1910

◇禁転載◇


 第三章 乱魁
  一 決心 (2)
 改 訂 版















檄文大要 

何故か何時かといふ問に対し、歴史上の題目で答へられぬものが少 くない、殊に叛逆とか陰謀とか、内密に計画される性質のもので、 而も其計画が失敗に終つた場合には、大抵正確な答は得られぬのが 例で、成功者側に記録が残り、失敗者側には記録の滅ぶことは、一 般の規則といつて宜い位である、大塩乱に就いては幸に檄文の文句 が写伝へられてあるから、之によつて挙兵の理由を検出して見やう、 先づ檄文の大要を摘むと、近年地震・火災・山崩レ・洪水等の流行 するのは、全く天より上役人を戒め給ふ所以である、彼等は賄賂ま たは奥向女中の因縁により、道徳仁義を弁へざる身分にて不相応の 大役に任命せられ、一人一家を肥すことにのみ汲々とし、従来諸役 年貢に苦しめる百姓に対し更に過分の用金を申渡す、それが為下民 の怨気天に通じ、色々様々の天災となれども、上役人は一向心付か ず、我等草の陰より常々小前百姓の難儀を察し悲めども、湯武の勢 孔孟の徳なければ空しく蟄居し、如何とも致し難き処、当節米価弥 増に高直となり、下民の難儀一方ならざるに、大阪町奉行諸役人共 の政道正しからず、江戸へは廻米を為しながら京都へは之を差止め、 剰へ五升壱斗の米を小買せんとて下阪する者を捕縛する、元来当地 の富商豪家は大名へ金銀を貸付け、家老用人格となり、利足の外に 莫大の扶持米を取り、又は自分の田畑新田等を夥しく所有せる者な るに、彼等を促して金銀米銭を施与せしむることを為さず、徒に堂        イビ 島の米相場計を苛り、彼等はこの難渋の時節にも拘らず、美服を飾 り、酒食に飽き、女色に耽り、蔵屋敷役人共と揚屋茶屋にて宴楽を 擅にしてゐる、之を見ては蟄居の我等最早堪忍成り難し、湯武の勢 孔孟の徳はなけれども、天下の為に血族の禍を犯し、同志を駆集め、 禄盗人同然の諸役人を誅伐し、引続いて驕奢の町人共を誅伐し、彼 等の貯へたる金銀米銭を分散致すにより、摂河泉播の小前百姓及仮 令若干の田畑を所持するも、家内多勢にて衣食に窮せる者共は、大 阪市中に騒動起ると聞かば、早速駈付けよ、我等が所業は本朝にて は平将門明智光秀、漢土にては劉裕朱全忠の如く、天下国家を奪は んとする慾念より出でたるにあらず、湯武・漢高祖・明太租が民を 吊ひ君を誅し、天討を行ひたる誠心に同じ。若し疑念を抱かば眼を 開いて我等の所業の終る所を見よ、といふのである。

 何故か何時かといふ問に対し、歴史上の題目で答へられぬものが 少くない。殊に内密に計画される性質のもので、然もその計画が失 敗に終はつた場合には、大抵正確な答は得られぬのが例で、成功者 側に記録が残り、失敗者側に記録の滅ぶことは、一般の規則といつ て宜い位である。大塩乱に就いては幸に檄文附録(五)の文句が伝 へられてあるから、之によつて挙兵の理由を検出して見よう。先づ 檄文の大要を摘まむと、近年地震・火災・山崩・洪水等の流行す るのは、全く天より上役人を戒め給ふ所以である。彼等は賄賂また は奥向女中の因縁により、道徳仁義を弁へざる身分にて不相応の大 役に任命せられ、一人一家を肥すことにのみ汲々とし、従来諸役年 貢に苦しめる百姓に対し、更に過分の用金を申渡す。それが為下民 の怨気天に通じ、種々様々の天災となれど、上役人は一向心付かな い。我等草の陰より常々小前百姓の難儀を察し悲しめど、湯武の勢 孔孟の徳なきを以て、空しく蟄居し、如何とも致し難き処、当節米 価弥増に高直となり、下民の難儀一方ならざるに、大阪町奉行以下 諸役人共の政道正しからず、江戸へは廻米を為しながら京都へは之 を差止め、剰へ五升壱斗の米を小買せんとて下阪する者を捕縛する。 元来当地の富商豪家は大名へ金銀を貸付け、家老用人格となり、利 息の外に莫大の扶持米を取るのみならず、自分の田畑新田等を夥し く所有して居るのに、町奉行以下諸役人共彼等を促して金銀米銭を                        イビ 施与せしむることを為さず、徒に堂島の米相場計を苛り、彼等はこ の難渋の時節にも拘らず、美服を飾り、酒食に飽き、女色に耽り、 蔵屋敷役人共と揚屋茶屋にて宴楽を擅にしてゐる。之を見ては蟄居 の我等最早堪忍成り難く、湯武の勢孔孟の徳はなけれど、天下の為 に血族の禍を犯し、同志を駆集め、禄盗人同然の諸役人を誅伐し、 引続いて驕奢の町人共を誅伐し、彼等の貯へた金銀米銭を分散致す により、摂河泉播の小前百姓及び仮令若干の田畑を所持すとも、家 内多勢にて衣食に窮せる者共は、大阪市中に騒動起ると聞かば、早 速駈付けよ。我等が所業は本朝にては平ノ将門明智光秀、漢土にて は劉裕朱全忠の如く、天下国家を奪はんとする慾念より出でたるに あらず、湯武・漢ノ高祖、明ノ太租が民を吊ひ君を誅し、天討を行 ひたる誠心に同じ。若し疑念を抱かば眼を開いて我等の所業の終は る所を見よといふのである。


「咬 菜 秘 記」その49 http://www.cwo.zaq.ne.jp/oshio-revolt-m/sakam49.htm 坂本鉉之助 その22井上哲次郎


「大塩平八郎」目次3/ その97/その99

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