Я[大塩の乱 資料館]Я
2009.10.29

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「大塩の乱関係論文集」目次


『江戸と大阪』
その106

幸田成友著(1873〜1954)

冨山房 1942 増補版

◇禁転載◇


 第五 金 融
  三 町人の金融 (1)
管理人註

並合と素銀 家質 手錠前 株の書入

  三 町人の金融  大阪に於ける大名貸、江戸に於ける蔵米取の借金の仕方は前述 の通りである。次には武家以外の金融について一言しよう。                               普通の貸借には担保を入れるのと入れぬのとがある。後者を素 ギン       ナミアヒ 銀といひ、前者を並合といひ、並合は軽蔑されて居る。信用制度 が進めば対人信用が主で、担保は不用である。担保貸を軽蔑して ゐる所から見れば、大阪は流石に信用制度が発達してゐたといへ よう。  揖保に入れる第一の器物は何かといへば、家屋敷で、これを家 質といふ。家屋敷は或る意味においては保証金の役目をする。御 勘定所御用達の町人などは、三井の如き豪商すら、必ず家屋敷の 沽券状を差出してゐる。併し一般には家質は資金融通の担保とし て用ひられる。大阪で明和年間に家質奥印差配所なるものが出来 たが、その冥加金額を奥印料と比べて見ると、少くも銀三高貫目 の家質がなくてはならぬ。大阪全体の沽券高が三十万貫目といふ のですから、十分の一は家質に入つて居るものと見ねばならぬ勘 定となります。江戸で家質を入れる時は沽券状を名主の手に委託 する。それが名主の私曲の原因となつて罪を得た者が多かつた。 江戸大阪両地とも家質証文には家主・親類・五人組の連印、年寄 或は名主の奥書が要る。沽券貸といつて沽券状を担保にとつて貸 付ける方は、家質より一層紛糾が生じ易かつた。  商品を担保にとる貸付についていふと、大阪では米切手と砂糖 切手とは切手そのものを引取つて貸付ける。他は現物を見た上で 貸付けて、その倉庫の鍵を保管した。但し干鰯だけは仲士を信用                    テヂヤウマヘ して鍵を保管しなかつたといふ。江戸では手錠前といふ言葉があ る。文化八年に杉本茂十郎の書いた「十組問屋取結書」に「商ひ 諸代物を土蔵に積入させ、右一蔵にて代金見積り、錠前封印をい たし、金子用立候儀を手錠前と相唱へ」たとある。錠前を預つて 金を貸すのは大分幼稚であるが、米切手砂糖切手で金を貸すのは 今日の蔵預証券で融通をするのと全然同一である。利子は家質が 一番安い。沽券貸と手錠前とは同じ位で、家質の二倍もする。十 組問屋取結書に「近来右家質は六七分、沽券貸は一割又は一割五 分、手錠前も右同様、其の上礼金抔と相唱、右利足の外に差出候 様成も有之、追々高利に相成」とあります。  株の権利を担保として貸金することもある。例へば髪結株貸船 株を担保とする如きであつて、これを髪結床書入船床書入といつ た。書入とは担保品の占有権を移転せしめないもの、これに反し て担保品の占有権を移転せしむるのが質入である。

 


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