帳合米商は一年を三季に分つて取引を行ふ。第一季は正月八日
に始まつて四月二十七日に終り、第二季は五月七日から十月八日
まで、第三季は十月十七日から十二月二十三日までゞ、毎季の最
終日を限市といふ。毎季売買を開くに先だつて建物、一に建米と
称し、その期間において売買の標準となるべき米を定める。その
法は第一季及び第三季においては四蔵中(筑前・肥後・中国・広
島)仲買各自が適当と認めた米の名を封書を以て月行事に差出し、
月行事から年行事に差出し、会所で両行事立合の上開札し、最多
数を得た分を建物とする。然し第二季に限り加州米を以てこれに
充てる。
帳合米商は百石を最低額とする。売買の開始は正米商と同時で
あつて、正引即ち正米商の引方と共に一時売買を中止する。八ツ
時(午後二時)過に水方役が打揃つて寄場に出で、二寸余の火縄
に火を点じ、箱に入れて看板の下にかけ、その周囲を守護する。
合図の拍子木で再び立合を開始し、火縄の消える時また拍子木を
打つ。この時の相場を火縄直段又は大引直段といひ、水方役がそ
れを書いて場所へ出す。帳合米某日の直段といへば、この火縄直
段を指し、年行事から町奉行に上申する。火縄の消える頃、売買
が二様三様に分れ、水方役が直段を書記し難い時がある。或は故
意に看板に手を触れて之を外すことがある。かくの如き時は当日
ルイヨウ
の帳合商は潰れとなり、前日の火縄直段を以て売買取引の立用と
するのである。仲買は大引に至つて退散するのが通例であるが、
尚残留して売買に従ふ者がある。さうすると水方役は大抵半時毎
に撒水して退散を促す。故に一番水・二番水・三番水の称がある。
二番水の直段を桶伏直段といつて、これは相場触に記入せられる。
帳合米は正米商と同様に仲買自身の思惑又は客方の注文を引受
けて売買する。売買はすべて正米の取引を標榜し、当日売買を解
除して一杯となるを日計といひ、然らざる場合はかねて取引のあ
る米方両替屋にあてゝ、売付或は買付を送り、敷銀と歩銀とを出
す。要するに受渡を延期する意味で、限市前に売埋、若しくは買
埋をなし、両替屋の帳簿面に於いて直合決算を為すを原則とする。
両替屋は毎月三回小勘定をなし、限市に至つて大勘定をする。限
市前の三日間は仕舞寄商と称し、新規の売買を許さず、専ら売埋
買埋を為さしめる。万一相手がないため立埋が出来ない時には、
正銀正米の受渡となる。正銀正米の取渡は看板面には両替屋一軒
百石とあるけれども天明度に一軒二百石づゝ、寛政度に四百石づゝ
となつた。
石建商は帳合米売買と違はない。建物の讃岐米であること、二
十石から取組むこと、敷銀の不用なこと、歩銀が帳合米より安い
こと、限日を一年六回とすること等が特色である。文久三年以後
は帳合米商がすたれて、殆ど石建商のみとなつた。限日の決算に
使用する標準直段は時代によつて算定法が相違してゐる。
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