Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.2.23

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「大塩の乱関係論文集」目次


『江戸と大阪』
その156

幸田成友著(1873〜1954)

冨山房 1942 増補版

◇禁転載◇


 第九 株仲間 (10)管理人註

地代店賃の 引下 賃金の引下

 元来株仲間を解いたのは営業の自由によつて商品を豊富にし、 直段を引下げるといふ趣意であつた。それであるから独り町人の 株仲間を解くのみならず、中国・西国・四国筋の領主地頭が自国 の産物はいふに及ばず、手を廻して他国の産物を買集め、これを 蔵物として売捌き、或は領主の権威を以て他の売買に故障を申込 み、或は謂なく他所の者から冥加金をとることなどを厳に禁じ、 若し旧習に泥んでその弊を改めぬなら急度沙汰に及ぶとまでいつ て居る。その外直待といつて船頭が荷物を売らず、高直の出るの を待つことを禁じてゐる。道理千万といふべきだ。町人の株仲間 が利益を独占するのを攻撃するなら、船頭の不正、大名の不正も 矯正すべきで、これ等は至極結構である。然し果して大名を拘束 して本令を遵守せしめるだけの実力が当時幕府にあつたか、甚だ 覚束なく感ぜられる。  日用品の安価だけでは人民の生活が安定したとはいへない。地 代・店賃・職人の賃銀・借金質物の利息等も安くなつてくれなけ ればいかぬ。幕府は勿論これを希望してゐる。地代店賃について は寛政度の調査を標準とし、若し当時の書類が無ければ隣町又は 同じ格の場所に見合はせて取極めよといつて居る。何故寛政度を 標準としなければならぬか。十三年七月の申渡に、土地の盛衰に より地代店賃に高下のあるのは勿論であるが、市内一般に追々引 上げ、殊に近来謂なく格別に引上げた場所がある。身軽のものの 難儀は勿論、諸色直段にも影響する。既に先般町入用の減省を申 付けた上は、地代店賃もこれに準じて引下げよ。地主の身分にと つては、多少手取金が減じても家業を失ふといふ程ではなからう が、地借店借にとつてはそれだけ生活が為し易くなる訳であるか ら、これ等の趣をよく\/弁へて御趣意を有難く存ぜよとありま す。町入用の減省といふ外に地代店賃を安くすべき直接の原因は ない。なるほど本年三月に寛政度町法改正申渡書を一冊づゝ町々 に渡し、本書記載の各條を遵守せよ、若し町役人の手限で町人用 を減ずることが出来なければ奉行所に申立てよ。取調の上減少の 出来るやうに致し遺はすと申渡してゐる。町入用は土地家屋を有 するものゝ負担である。これを減ずることが出来たとしても、ど れだけ地代店賃に影響するであらうか。地代店賃は地主家主の負 担から割出したものではない。然らば町入用の減少によつて地代 店賃の引下を望むは所謂二階から目薬で、及びもつかぬこととい はねばならぬ。  職人の手間賃や人足賃の引下を諭した触書(十三年四月)に、 地代店賃を引下げるに従ひ、商品は勿論、諸職人手間賃人足賃に 至る迄引下ぐべき道理である。地代店賃を引下げた上は、手間賃 人足賃も同様の振合に立戻れとある。地代店賃の高下に従ひ、商 品の価格や賃銀が高下するとは受取れない議論である。物価書上 に車力の賃銭直下の届書がありますが、それがやつと五分引です。 これとても止むを得ず五分引を届出でたので、本当に賃銭が安く なつたものとは考へられません。

 

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