Я[大塩の乱 資料館]Я
2009.10.11

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「大塩の乱関係論文集」目次


『江戸と大阪』
その98

幸田成友著(1873〜1954)

冨山房 1942 増補版

◇禁転載◇


 第五 金 融
  二 武家の金融 (4)
管理人註

米切手の形 式 蔵米の入札 払下

 こゝに米切手が如何なるものであるかを説明したい。米切手は 通例西ノ内・仙花の如き紙を縦に三分したものを用ゐる。縦一尺 二三分、横四寸五六分ある。稀には全紙を四分したものもある。 切手面には第一に俵数を掲げ、次ぎに切手引替に右の俵数を交付 すべき旨を記し、最後に何蔵と記載してある。  切手面の俵数は蔵により相違がある。二十俵・二十五俵・三十 俵色々ですが、一枚で十石を代表することは皆同じで、俵数の相 違は単に一俵の中身の相違に基づけるに過ぎない。「懐宝永代蔵」 と申す小本を見ると、各地方の一俵の中身が分ります。どうして かういふ相違が起つたか。租税の取立方、運搬上の都合等その原 因は種々あることと思ひます。切手の本文も亦蔵々によつて相違 してゐる。「右可相渡也」と簡単に記したのもあれば、「右切 過候はゞ可反古、水火之難不存候、已上」と叮寧を極めた のもある。切といふのは保管期限の意味で、一定の保管期限を経 過せばこの預証は無效であるといふ意、また水火の難は存ぜずと は、万一保管中の米穀に水火の難があつても弁償の責に任ぜずと の意である。それから最後の何蔵とあるのは、いふ迄もなく切手 発行者たる蔵名前です。以上三項は如何なる米切手にも記載せら れる事項ですが、尚買手の屋号氏名、買入の月日、米の産出年度、 切手の番号等を記入したものもある。紙面に大小数種の印影のあ るのと、切手面の文字に特異の字体を用ひてあるのとは、何れも 贋造を防ぐの意に出たものである。  蔵米を蔵屋敷より買得る資格のあるのは米仲買に限つてゐる。 併し多数の米仲買が各蔵の蔵米を随意に買得るのではない。蔵々 により自ら出入の仲買が一定してゐる。これを蔵名前と称し、一 種の特権です。故に某蔵の蔵名前を有しない米仲買が、その蔵米 を買入れようとする時は、他の仲買から蔵名前を借用するのです。  蔵米の売買は一切入札で、相対売買といふことはない。入札払 米の時期は蔵米廻着の時期により自ら相違がある。西国米は八・ 九・十月頃から新穀を売始め、北国米は概して翌春三・四月頃か ら入札を行ふ。  蔵屋敷で払米を行はんとする時は左の如き看板を払米場所へ出 す。


     一米何千俵     何国蔵

    右代銀敷銀例之通    何屋何兵衛掛

      月    日
この看板に見える何屋何兵衛は該蔵屋敷の銀掛屋です。敷銀とい ふのは保証銀の意味で、筑前・薩摩は百石につき銀三百目、その 他は二百目であつて落札の翌日持参するのが通例ですが、石数の 多い時は宵敷と称し当日に敷銀を取立てることもある。代理は落 札当日より八日目に納めるもあり、十日目に納めるのもあつて一 定してゐない。  払米看板が出た時、買入希望の仲買は俵数代価を半切紙に認め、 上封をなし、正米相場の引方頃即ち今の時間で十二時前払米場所 に持参し、入札番号を聴届けて帰る。これは入札直段が同一であ つた場合、入札時間の遅速によつて落札者を決定するからである。 開札は午後二時頃から始り、落札者の屋号・名前・俵数・代銀等 を公示する。米高は最初の看板高にかゝはらず蔵屋敷の都合で増 減することが出来る。落札の公示があつた時は、落札者は印形持 参の上、石数及び落札直段を記入した蔵屋敷の帳簿に捺印し、買 請の事実を承認し、翌日敷銀を納める。若し敷銀を納めない時は 屋敷はその落札を無效とし、尚蔵名前を取消す、即ち将来の入札 権を剥奪する。これを板獄門といふ。板獄門にかゝるのは仲買の 最も恥辱とする所で、その文句は左の通りである。

     何月何日札

     無敷返米人          何屋何兵衛 

 


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