○飢饉戯言 |
アゝラたべたいな\/、 給べたいことで云ふなら、 米が四合に割五合、 四合五勺の凡麦も、 ゑませば薪と手間がそん、 小豆の粥やら豆飯やら、 末はどうなるしら粥と、 胸につかゆる芋飯も、 腹はぶつ\/小言いふ、 今は日本で間に合はず、 唐をたのみの飯の菜、 諸式一同何もかも、 高ひも安ひもおしなべて、 よるとさはると米ばなし、 扨又今の流行は、 人の心の白豆の、 黒くかためた四文売、 泣子も笑ふ蕨餅、 みんな身上からの鮓、 此節ひしと金輪焼、 藪はなけれど皆捨子、 十万億土へ行倒れ、 こそ\/どろぼう巾着切、 天竺浪人天麩羅を、 一寸つまんでちくてんす、 捕へて天窓てん\/も、 神の見放す天のばち、 置き去り身投げ首くヽり、 押借損料日なし貸、 別して多きは物もらひ、 今の浮世はさかさまで、 江戸で田舎の雑煮売、 親は放蕩、子はまじめ、 自身番から火事を出し、 釈迦の開帳に雨が降る、 甲州徒党おしあるき、 吟味するもの吟味され、 御大名方商ひし、 宮様方が金を貸し、 町家のものが能舞台、 二本差したる御歴々、 女太夫の供をする、 御足軽が立身し、 御家老職が首きられ、 裏店小店のかヽアたち、 着替への半天前かけは、 結城縮縮紬島、 出るにも入るにもひへ帯、 是の真似するお三どの、 一両一分の取替で、 あかぎれだらけの其の足で、 天鵝絨鼻緒の下駄をはく、 磨き立たる総銅壷、 うちはいつでも火の車、 物見遊山のはれ衣裳、 戻るとやりくる損料銭、 それで江戸中麦を喰ひ、 天のいましめ此きゝん、 度々下さる御施行でも、 間に合ひかねたる御張出し、 江戸でまごつくごう人を、 町年寄がかいつかんで、 御救小屋へさらり\/、 親子這入ましよ佐久間町、 記時事 五車亭狂戯 麦飯朝炊釜土烟 万民釣領苦凶年 買来無米又無酒 行処有餅似噛銭 縊首難逃家賃責 投身処死借金淵 請看此節筋違外 置去御救幾百千 米百文に付四合、 挽割麦同四合五勺、 蕎麦粉一升に付五百文、 田作一升に付八十八文、 焼油(マゝ)満一升に付五百四十八文、 酒一駄に付三百匁より、 塩一升に付八十八文、 銭相場一両に付五貫八百四十八文、 申年十二月半頃よに俄に相場上る、 翌年もいよ\/諸色高価なりければ、 三水に酉の年とて売る酒も つくりは止て扁ばかりなり