春陽堂「大塩後素」4

Я［大塩の乱資料館］Я
2008.7.18

「大塩後素」　その４

『古今名誉実録合本下巻』
春陽堂　1895 　より転載

◇禁転載◇

	管理人註
庄司義左衛門は此一條を大塩に告げけるに、後素扼腕切歯して奸吏の　　　　　　　　こゝ憎むべきを憤り、爰に始めて仁義の公を以て不義の私を懲さんものと決心し、庄司義左衛門を始め二十余名の同志者と謀りて、各々署名血　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいじよ判して固く宣誓し、密に其党を募集して、奸党艾除の準備をぞなしたりける、明くれば天保八年丁酉の正月、天下万民の飢餓益々甚しく、草根木皮猶食ひ尽して、惨状見るに忍びざるの有様となりても、猶有司の一銭を投じて、是を救はんとするものさへなきに、後素は慨然自ら愛蔵し　　　　　　　　　　　　　ひさたりし積年の師友たる書籍を鬻ひで、以て其一端を供せんと欲し、出入の書肆河内屋喜兵衛を呼びて、遂に是を売却し、代価六百五十両を　　　　　　　　　さしず得たり、即ち後素の指揮に依りて、左の証券を一万軒を限りて配附し、日を期して賑救施与の事を定めたりき、その文に曰く　　　　　口　　上　近年打続き米穀高直に付、困究の人多く有之由にて、当時御隠遁大　塩平八郎先生、御一分を以て、御所持の書籍類残らず御売払なされ、　其代金を以て、困窮の家一軒前に付金一朱づゝ、洩れなく、都合家　数一万軒へ御施行之れ有り候間、此書附御持参にて、左の名前の所　　さう　へ匇々御申請に御越可被成候、　　　　但し来る二月八日朝五ツ時より八ツ時までの内安堂寺町御堂筋　　　南へ入る東側本会所まで、刻限相違なく御越可被成候、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　河内屋　喜兵衛　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　新次郎　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　紀一兵衛　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　茂兵衛此の証券を撒布したりしより、貧民等は枯苗の甘雨を得たる如き思ひして、例刻前より、早くも手に＼／引札を捧げ、安堂寺町なる町会所の門前に市を成し、我も＼／とその厚き恩沢に浴し、随喜の涙を落して、後素の慈恵を感謝せざるものなく、是より大塩平八郎の名愈々高まりて、神の如く尊崇しけり、跡部山城守は、しかく後素の名望高まり行くを快よからず思ひて、直に格之助を召して言ひけるは、足下の　　　　　　　　　みだ隠居大塩平八郎は、漫りに究民に施与をなしたりとか承るが、予ても申達せし如く、今年は御代替りにて、御入費も多端なる折からなれば、御施行の事さへ御見合せと相成りし程なるに、其御趣意に背いて、恣　　　　　　　　　　　　　ないがしろに施行をなすとは、全く上官を蔑如にする段、不都合の至り、畢竟するに、私名を売らんとての処為なるべけれど、其罪軽からねば、屹度御沙汰にも及ぶべきなれども、隠遁の身分ゆゑ、格別の儀を以て、此度は差許さるゝ間、以後必ず心得違ひなきやう致すべし、と譴責を加へたり、格之助は帰りて此事を後素に語りけるに、後素は格之助と顔見合せて、微笑せしのみ、復一語をも発せざりき。	施行札

管理人註

庄司義左衛門は此一條を大塩に告げけるに、後素扼腕切歯して奸吏の　　　　　　　　こゝ憎むべきを憤り、爰に始めて仁義の公を以て不義の私を懲さんものと決心し、庄司義左衛門を始め二十余名の同志者と謀りて、各々署名血　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいじよ判して固く宣誓し、密に其党を募集して、奸党艾除の準備をぞなしたりける、明くれば天保八年丁酉の正月、天下万民の飢餓益々甚しく、草根木皮猶食ひ尽して、惨状見るに忍びざるの有様となりても、猶有司の一銭を投じて、是を救はんとするものさへなきに、後素は慨然自ら愛蔵し　　　　　　　　　　　　　ひさたりし積年の師友たる書籍を鬻ひで、以て其一端を供せんと欲し、出入の書肆河内屋喜兵衛を呼びて、遂に是を売却し、代価六百五十両を　　　　　　　　　さしず得たり、即ち後素の指揮に依りて、左の証券を一万軒を限りて配附し、日を期して賑救施与の事を定めたりき、その文に曰く　　　　　口　　上　近年打続き米穀高直に付、困究の人多く有之由にて、当時御隠遁大　塩平八郎先生、御一分を以て、御所持の書籍類残らず御売払なされ、　其代金を以て、困窮の家一軒前に付金一朱づゝ、洩れなく、都合家　数一万軒へ御施行之れ有り候間、此書附御持参にて、左の名前の所　　さう　へ匇々御申請に御越可被成候、　　　　但し来る二月八日朝五ツ時より八ツ時までの内安堂寺町御堂筋　　　南へ入る東側本会所まで、刻限相違なく御越可被成候、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　河内屋　喜兵衛　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　新次郎　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　紀一兵衛　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　茂兵衛此の証券を撒布したりしより、貧民等は枯苗の甘雨を得たる如き思ひして、例刻前より、早くも手に＼／引札を捧げ、安堂寺町なる町会所の門前に市を成し、我も＼／とその厚き恩沢に浴し、随喜の涙を落して、後素の慈恵を感謝せざるものなく、是より大塩平八郎の名愈々高まりて、神の如く尊崇しけり、跡部山城守は、しかく後素の名望高まり行くを快よからず思ひて、直に格之助を召して言ひけるは、足下の　　　　　　　　　みだ隠居大塩平八郎は、漫りに究民に施与をなしたりとか承るが、予ても申達せし如く、今年は御代替りにて、御入費も多端なる折からなれば、御施行の事さへ御見合せと相成りし程なるに、其御趣意に背いて、恣　　　　　　　　　　　　　ないがしろに施行をなすとは、全く上官を蔑如にする段、不都合の至り、畢竟するに、私名を売らんとての処為なるべけれど、其罪軽からねば、屹度御沙汰にも及ぶべきなれども、隠遁の身分ゆゑ、格別の儀を以て、此度は差許さるゝ間、以後必ず心得違ひなきやう致すべし、と譴責を加へたり、格之助は帰りて此事を後素に語りけるに、後素は格之助と顔見合せて、微笑せしのみ、復一語をも発せざりき。

施行札

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「大塩後素」 その４

『古今名誉実録 合本下巻』 春陽堂 1895 より転載

「大塩後素」　その４

『古今名誉実録合本下巻』
春陽堂　1895 　より転載