迹共産主
義者に似
たり
平八を吊
ふに爆裂
薬を以て
せよ
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其の富者、強者、貴者、尊者の私有財産を以つて、自己の私有財産の如くに
之を破壊し、之を散乱したるに於ては、彼の私有財産を見認めさる、共産党
一派と、其の形迹を同ふすと雖とも、平八は未だ平生より、此の如き特種の
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感想を有したるにもあらず、唯憤懣激昂の余迹、相似たるを致たせるものな
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り、故に平八を目して、社会主義実行者となすは不可なしとするも、其の破
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壊手段を指して直ちに平八を以つて一種の共産党となすは、未だ以つて平八
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其の人の正鵠を得たるものとなすへからず、
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平八は社会主義実行者として破壊的手段を取れり、其の浪華を一火の中に
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巻き去らむとせる大企画、壮快又痛快、惜むらくは、未だ浪華の数十万戸を
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挙げて一炬に斥し去り、一掬灰となし畢はるを得ざりしことを、若し夫れ方
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今欧米に於ける無政府党の如く、豚油と硝薬とを以つて爆裂弾を製すること
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を知らしめたらむには、十仙の一包、克く空に聳ゆる、穹窿の大厦鉅屋を一
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瞬に数十甍連ねて、微塵に粉砕し得べしとせば、大坂の如き一城市を煙とな
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しとなし、燼となし灰となすは、掌を翻へすが如くなりしに相違なし、啻
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に大坂一城市のみならず、天下の不平等なる、凡ての社会的現象に於ける、
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物質的有形的悪魔の団塊を一僂指の下に爆裂し破壊し、粉砕し、微塵にする、
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未だ必しもなし得べからざりしと謂ふべからず、惜むべし、当時未だ此の破
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壊的一大要具のあらざりしことを、平八今や社会の一狂人として黄泉の下に
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永眠す、平八若し地下に起たしむるを得ば、此の豚油と硝薬とを調和したる
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爆裂弾を贈つて、其の満腔の大烈焔を余蘊なく吐き去らしめんに、渠れ業已
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に幽明域を異にしてより、幾十載、亦た之を如何ともするなし、請う、野花
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や冷水を、其の墳前に手向けむより、寧しろ此の一大狂薬品の一包を、清酌
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庶羞の奠に換へ、以つて其の未だ死せざる英魂毅魄を弔し祭らむかな、
大塩平八郎 終
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