Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.14

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その30

松林白猿 講演

安藤粛太郎速記(英雄文庫 9)萩原新陽館 1901

◇禁転載◇

第七席(2)

管理人註
  

「実は此節世間一般の饑饉にて、細民の困難は一方ならず、貴殿などは少し                   こん も御存知あるまいが、草や木の実を米に混じても尚ほ足らざる者、五畿内は 申すに及ばず、此大坂にも数限りなくありて、実に其様見るに忍びず、拙者 富有の門弟に話して聊さかの義捐をいたし、之を救ふと雖ども中々以て左様                                うへ のことにては一分の人も救ひきれず、と申して此儘に捨置きなば貧民飢に迫                          しば/\ つて如何なることをいたすやも計られず、之に依て拙者屡々奉行に願ふと雖 ども、未だ其沙汰にも及ばず、然るに貧民の有様は益々甚だしく相成りたれ ば、最早一時も猶予なり難し、如何ともいたし方無之き間、貴殿に御相談申 して、大坂市中の富豪者に相当の義捐をして戴き、其金子を大坂市中の貧民            めぐ に施こし、近畿の細民に恤まんと欲するが、貴殿の御意見は如何にや伺がひ 度ござる」 と、申されまして個様なことゝは今まで知せなかつた、鴻池善右衛門、誰も 話しを聞きませんから飢饉といふものが、其様に甚は だしいとは知りません」 一寸のお話しにも鴻池の次男が乳母に向つていふには 「乳母や、世の中に貧乏人といふものがあるといふがあるそうじやの」                             こつち 「ハイ/\、貧乏人といふものが沢山あるのでございますよ、此方の様な大 家は中々あるものではありません、お金もなければお米もない、其日/\に 稼いで喰べるものが多いのでございますよ」                        こがね   み 「さうかな、ダガ乳母や、幾ら金がないといつても黄金が箕で一杯や二杯な  うち い家はあるまい」 といつたそうであります、個様な訳で大坂の鴻池なぞと申しますと、金など は何処の家にもあるもので、飢饉だと申して、藁や草を混ぜて喰ふやうなこ とはあるまいと思つて居たのでありますから、只今大塩先生の言葉を聞て大 に驚ろき 「ハヽア、左様でございますか、飢饉のことは私も聞ては居りましたが、左 様に甚はだしいとは今まで存じませんでありました、夫は誠とに不憫のこと でございます、実に先生の御志ろざしは、善右衛門、憚かりながら感服仕ま つりました、如何にも先生のお言葉承知いたしました、然らば善右衛門、諸                           たつし 人を集めて相談の上、金額の高は追て私より今夕にも申し達ませう」




石崎東国
『大塩平八郎伝』 
その92


『大塩平八郎』目次/その29/その31
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