Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.15

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その31

松林白猿 講演

安藤粛太郎速記(英雄文庫 9)萩原新陽館 1901

◇禁転載◇

第七席(3)

管理人註
  

                              「是は/\早速の御承諾、中斎誠とに喜こばしうござる、然らば宜しなに御        たい 取計らひ下され度、拙者之にて帰宅仕まつります」 といつて大塩先生は善右衛門が承知したしたのを聞て、大に喜こんでお帰り になりました、夫より鴻池善右衛門に於きましては、如何にも大塩先生の志            くわいそう ざしに感じまして、早速回章を作つて岩城、三井、加島等の諸富豪へ回しま したから、我も/\と集まり来つたる面々には三井、岩城を始めといたし、 天王寺屋五郎兵衛、加島久右衛門、平野屋五兵衛、米屋平右衛門、炭屋彦兵 衛、辰巳屋久左衛門等十有余人、皆是れ大坂屈指の金満家でございます                   こんにちかう 「さて皆々様、御苦労様でございます、今日斯寄て戴だいたのは別儀でもご       こんちやう ざいません、今朝大塩先生が参られまして、当時飢饉にて、当時の貧民は申 すに及ばず、五畿内の細民共は実に三度の食も為すことが出来ず、夫に加ふ     はび       るに悪疫蔓こつて医薬を服むことも出来ず、誠とに聞くに堪へません、既に 大塩先生などは門弟其外同志の人々より、出来得るだけの金銀を集めて貧民 へ施こしたれども、此上は如何ともし難きを以て、私くし共富有の者に義捐            めぐ をして貰ひ、之を貧民に恤みたいといふのは、実に感服いたします、夫に依 て私が皆様へ御相談をいたして、相当の義捐をいたしたいといふのでありま       いかゞ すが、皆様は如何に思し召しますか」                 げん と一同の人々を見廻はしました、其言を聞て一同黙然として居りました、時 に岩城屋太兵衛、席を進んで 「成程御当家の主人の仰せらるゝ通り、私は先づ相当の義捐をいたし度思ひ まする、大塩先生のお頼みに依て、私は一万両いたします、皆様は如何でご ざります」 といはれまして岩城屋が一万両奮発いたしますといふから、其他の人々も 「然らば私も二万両」 「私も一万両」 「私も五千両」 といつて皆々相当の義捐をいたすことになりました、是に依て鴻池は卒先者 でありますから、五万両出すといふことになりました、其時分の五万両とい                       たいけ へば只今の五十万円以上であります、実に鴻池の大家たることは驚ろくの外             うち はございません、然るに其中にて米屋平右衛門といふ者がございます、此者           へつ は生れつき目上の人に諂らふ癖があります、何でも奉行の様なお方へ取入て            とく 置けば損はないと思ひ、疾より新奉行の跡部山城守へ内々で取入て居ります                             から既に跡部山城守が大塩先生を憎んで居て、何でも大塩の為ることには反 対をして居ることを知て居りますから、 「是は大塩先生が申し出したことなら、内々で奉行に聞てからでなければ人                                  こん 民の為めに義捐をして、反つて奉行より咎めを受ける様なことになつては斯 な詰らないことはない」 と思ひましたから 「マア/\御一統、暫らくお待ちなされ」 「何ですエ米屋さん、お前さんは義捐をするのは厭ですか」 「ナニ決して左様な訳ではございません、鴻池さんを始めとして皆々様の義 捐なさるのを、私一人義捐をするの拒む訳はありません、併しながら是がど うも申し出した人が悪いので困ります」 「ハテ大塩先生は当時市中で此上もない評判の宜しいお方ではありませんか、                  其先生が申し出したのを、申し出し人が悪いとは怪しいではありませんか」




石崎東国
『大塩平八郎伝』 
その92


『大塩平八郎』目次/その30/その32
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