Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.3.16

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その32

松林白猿 講演

安藤粛太郎速記(英雄文庫 9)萩原新陽館 1901

◇禁転載◇

第七席(4)

管理人註
  

 それ  さ う 「夫が左様でありません、成程人民の受けは大塩先生宜しうございますが、 新奉行の跡部山城守様と非常にお仲が悪ひ、何が何だか知りませんが、お奉                           せんだつて 行様は大変に大塩先生を憎んで居りますから、大塩先生が先達より再三お蔵 を開いて貧民を救はれるやうに願ひ出でましたが、お奉行様は其願書を投返 したと申します、左様の場合でありますから、私共が大塩先生の申したるこ          おの/\ とを賛成をいたし、各々相当の義捐をいたしましたなら、お奉行様の憎しみ を受けては詰りません、されば是は一応此儀をお奉行様へお届けに及んで、                                  ふる お奉行様が義捐をしても宜しいといふことを仰しやつたなら、其時にこそ揮 つて義捐をいたそうと思ひます、個様なことを軽々しくいたしては、私共の 身に取り宜しくはありますまいと思ひます」  てふ/\ と喋々述べ立てられ、一同も成程と思ひ 「左様なれば猶予いたさず、是より召し使ひの者を一走りお奉行様のお役宅 へ遣はして此儀を伺がつて見ませう」 と善右衛門、直に忠兵衛といふ番頭を召して 「コレ忠兵衛、只今御一同の人々が個様に集まつて、貧民救助の義捐をしや                                   うといふのであるが、お奉行様の思し召しも聞かんければ相成んに依て、其          かた/゛\ 方一寸参つてお届け旁々お奉行の思し召しを聞てくれ」     かし 「ハイ、畏こまりました」 といつて番頭の忠兵衛、急いで奉行の役宅へ参りました、モウ鴻池などの番 頭となりましては、奉行へお目通りが叶ひまするから、忠兵衛、奉行の役宅               へ参りますと、早速に跡部に面通りをいたしますと 「コリヤ鴻池の番頭忠兵衛、何の用じや」            かうべ もた と声を掛けられ忠兵衛、頭を擡げまして       こんにち 「恐れながら今日大塩先生のお頼みに依りまして、私くし主人を始め大坂の 物持共が私くし主人の宅へ集まりまして、貧民救助の為めに相当の金を義捐 いたさんと思ひまするが、元より個様なることは、お奉行様の思し召しも伺                     いかゞ がはんで出来るものではござりません、之は如何いたして宜しうござりませ うや、善右衛門自身参つて伺がはねば相成らんのでありますが、少々止むを              得ざる要用の為め、私くし奴が参りました、お奉行様の思し召しを伺がひ奉 まつります」 と聞て跡部山城守、さては大塩奴物持町人の処ろへ参つたか、何処までも彼 のなすことに邪魔をいたさんで置くものか」 と思ひ 「ウム、忠兵衛、好く聞け」 「ハツ……」 「此跡部が大坂の奉行として居る以上は、大塩如き与力の隠居位ゐに左様な 企だては決していたさせぬ、貧民を救ふても宜しければ予がお蔵米を出して 遣はす、夫にても足らぬ時は、此跡部より町人共へ義捐の儀を申し付る、然 るを予が未だ何とも申し出さんのは聊さか胸に思ふ処ろあればなり、要らざ る処ろへ大塩奴、自分の名誉を揚げる為め、左様なことをを頼み入れるとは、                            とく 不埒至極である、大塩の頼みを聞く者は予が思ふ処ろあり、疾と帰つて善左 衛門へ申せ」 と以ての外の奉行の言葉に、忠兵衛は驚ろいて直に帰つて参り右の趣むきを 主人に申しましたから、善左衛門も大に驚ろきまして一同へ話し、其処で其        義捐の話しは止んで、大塩先生へは何となく断はることになりました




石崎東国
『大塩平八郎伝』 
その92
 


『大塩平八郎』目次/その31/その33
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