いきなり
突然に瀬田、小泉の寝て居る間へ
「御用/\」
もろとも よなか
の声諸共に切入りました、さて瀬田、小泉の両人は夜半に不斗目を覚して見
ると、何となく物騒がしき有様でありますから、胸に一物ある者ゆゑ油断は
とつ
ありません、小泉淵次郎を揺り起して、一刀を把て居る処ろへ
むほん
「小泉、瀬田の両人、最早反逆は露はれたり、イザ尋常に縄に掛れ」
と、真先に進みたるは平山助次郎と吉見九郎右衛門の両人であります
「ヤア貴様は平山、吉見だな、今に及んで命惜しさに変心したか、貴様等如
き者に召捕るゝ瀬田ではないぞ」
と一刀の鞘を払つて、エイヤツといふと、平山へ切付けました、瀬田は一刀
流の達人でありますから、平山助次郎、眉間を切られてアツと跡へ下る、小
泉淵次郎も跡より続いて多人数の中へ飛込みながら
「瀬田氏/\、此場は拙者一人にて引受けたれば、貴殿は早く引揚げ
て先生に此ことをお知らせ下さい」
と呼はりました、押問答の猶予もありませんから、
「然らば小泉氏、跡は宜しく」
「アヽ引受けた」
と庭に飛下りました、其時に瀬田済之助は三人の者へ疵を負はせ、近付く者
のなきを幸はひ、ヤツといふと塀を飛越して、其儘大塩先生の宅へ息堰き切
て駈付けました、哀れや小泉淵次郎は其場に於て大勢の為めに討死をいたし
ました、瀬田済之助に於きましては、大塩先生の宅へ着くとドン/\と門を
叩き
どなた くゞ
「何方か潜りを開て下され」
と申し入れますと、二三人がバラ/\と顕はれ出で
うじ
「ヤア瀬田氏でござるか、如何いたしました」
「ヤア各々、先生は御在宅か」
「左様、先生は未だお目覚でござる」
「然らば」
といふので、先生の前へ駈行き血刀投出し
「先生、只今平山、吉見が変心をいたし、個様/\でございました、最早小
泉氏は討死をいたしたるならん、先生猶予はなりません」
と聞て、先生烈火の如く
かう
「ウーム、さては吉見、平山の両人、変心いたしたか、然る上は斯しては居
めうにち
られん、各々御苦労ながら手分して同志の者をお集め下さい、明日は必らず
討手の人数向ふならん、先んずれば人を制し、後るれば、人に制せらる、さ
こなた さかよ みなごろ
れば明早朝に此方より逆寄せした城代奉行を鏖殺しにせん」
もと
と下知の下より血気の壮士輩、心得たりと身を起し、八方へ走り出しました、
夫より集まり来る者凡そ三百余人、鎧兜の用意やら槍薙刀、鉄砲の類まで其
処へ揃ひました、
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