Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.8.13

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その18

真山青果(1878-1948)

『真山青果全集 第4巻』 大日本雄弁会講談社 1941 収録

◇禁転載◇

第二幕 (7)

管理人註
  

河 合 八十、八十……八十次郎! えゝ、勝手にしろ。(と諦めて戻り    来て、平山に)どうなつた、えゝ、話はどうついた。宇津本に頼ん    だら好いだらう。そこに居た、呼んで来ようか。 平 山 待てよ。少し落着いて考へようではないか。 河 合 だから、だから俺に委せろと云ふんだ。先生だつて大塩だつて、    おれは突ツ張るところは突ツ張る。貴公等はとかく因循過ぎる。明                             にがにが    日にも、今にも、お触れ出しになつたらどうするんだ。苦苦しいこ    ツた。おれは、うぬが飯の上の蝿だから追ふのだ!    宇津木、良之進をつれ、濡れ手を手拭にてふきつゝ入り来る。 河 合 塾頭、塾頭。 平 山 (目にて叱り) 河合、また出過ぎる! 河 合 (むツとして)然うか――。悪かつた、帰る。    河合、去る。 宇津木 (岡田を塾舎に遣りながら)何か起つたのですか。 平 山 どうも軽燥な性質で、火を見た馬のやうに騒ぎたがります。では    庄司兄、わしは隣家の瀬田氏のお宅でお待ちしよう。 庄 司 直ぐ後始末して行きます。 平 山 宇津木さん、又お目にかゝります。(一礼して歩み出し、奥の方                         を見て驚く)先生だ、先生だ。こりや可けない……。    平八郎、弓の折れを杖に曳き、俯向きて何か考へつゝ門口の方へ奥    を通る。 平 山 (仕方なく声を掛ける)先生、先生。 平八郎 (陰の声)おゝ助次郎か。久しう会はなかつた。 平 山 御遊歩でございますか。                     かはべり 平八郎 (沈みたる声)うむ。一日に一度は川縁を散策しないと気色が悪    い。これも永年の習慣だ、誰か。ゐるのか。 平 山 は、あの…… 平八郎 (声) 宇津木兄もゐるな。これも久しく会はなかつた。(寂    しく笑ひながら、姿を顕はして来る)同じ家にゐながら、少し遠い    やうだの。 宇津木 (微笑)先生、淀川堤は寒うございますよ。また風が出ました。 平八郎 (一つ二つ軽く咳嗽して)うむ、寒いから出て行く。体をいたは       ぢぐせ    つては地癖になる。    平八郎、疲れたやうに縁に腰掛け、柱に凭れる。    庄司、目礼して去る。宇津木、室内に入る。 平八郎 平山、当時世上の景気はどうだ。 平 山 予想以上の凶作と見えます。廻漕米がほとんどございません。 平八郎 人間、食はなければ死ぬぞ。貴公等、知つてゐるか。 平 山 は。 平八郎 その中で、道頓堀の芝居は大入り続きなさうだな。 平 山 は。 平八郎 気がついてゐるか、それなら好い。町目付の職掌を忘れるな。 平 山 は。    平八郎、縁側にありし宇津木の詩稿を取りて、見る。足先に寒さを    感じて、両足を裾にくるみて読む。    平山、手持ちぶさたに佇む。 宇津木 先生。(自用の座蒲団を持ち来り、平八郎にすゝめる) 平八郎 あん、有りがたう。(なかば無意識に坐り)これは漫遊中の詩草    だな、詩はあがつたな……。                   しわう 宇津木 いゝえ。(微笑)暇にまかせて雌黄を加へて居ります。 平八郎 心境が澄んでゐる。むゝ、格調も高くなつた……。(独語のやう    に嘆声を洩らしつゝ読む)    間。 平 山 宇津木兄、失礼いたします。先生、御免下さい。    平山、去る。


地癖
悪い癖




































雌黄
添削













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