Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.12.6/2017.11.29最新

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎の話」
その2

中原貞七編

『高等読本 巻1』文学社 1867 所収

◇禁転載◇

第十四課 大塩平八郎の話(二)管理人註
  

さても大塩平八郎ハ彼の旅人と峠の半腹に到りし頃、旅人ハ、かたへの道 を指さして、此方へ行けば、聊かの近道あり、旅なれ給はぬ人々ハ、大に 損のある事なりと、往還を横切りて、道も無き所を四五町も行く程に、か たはらの松の木陰より、雲つく如き大男、腰に一刀を横たへあらはれ出で たり、 平八郎ハ何の心も附かず、行き過ぎんとする程に、かの旅人ハ、大男に目 くばせして、平八郎を呼び留め、両人左右に立ちはだかり、衣類大小此所 へ置きて行くべしと、大音声に怒鳴り立つるを、肝太き平八郎なれバ、少 しもさわがず、偖ハ汝等ハ旅人と見せかけ、往来の人を悩す山賊なるかな、 よし左もあらばあれ、我も両刀を帯したり、汝等如きに手込に逢はんや、 命を落さんより、疾く/\道の案内せよと、呵々と笑ひたり、若年と侮り、 此一言に両人とも大きに怒り、憎き小忰、目にもの見せんと、鷲の小鳥を 捕ふる如く、胸ぐらしかと捕へたり、平八郎自若として、其手を取り、ね ぢあげて引きかつぎ、遥の谷へ打込みたり、     【図 略】 旅人となりし賊大に驚き、腰の一刀引き抜きて、切りてかゝるを、身をか はし、刀持つ手を拳にてしたゝか打ちけれバ、刀ハはるかのあなたへ飛び て、其身もそこにけし飛びたり、すかさず、平八郎飛び掛りねぢあげて、 刀の下緒をもつて、しかと引きくゝり、傍の松にぞ縛りける、彼の者ハ、 若年と侮りてありしに、今此力量早業に肝を消し、是れ人間にハよもあら じ、此深山に栖める天狗かとあきれ果てゝ、言句も出でず、其時、平八郎 ハきつとにらみ、汝人界に生を受けて、鬼畜の行ひ成す、天何ぞ是をゆる さんや、今速に首を刎ぬべき奴なれども、一命を助け置くなり、我が一言 を耳の底に止めて、悪念を翻し良民となり、天命を保つべし、已に一人ハ 天誅速に来りて、谷底の土となれり、是を見て其身の誡とするべしと、教 訓し、落ちたる刀を拾ひ取り、髻を根より切り捨て、足速に元来し道へぞ 引き返しける、 かゝる所へ、僕ハ取落したる品を獲て、道をいそぎ爰に来りて、平八郎に と逢ひ、今まで此所に待ちたるを怪しみけるに、平八郎ハさあらぬ体にて、 旅人に別れしまゝ、汝を見うしなはん事を思ひて、爰に待ちたりとて、諸 共に前なる宿へぞ急ぎける、後に此事を僕に語りしに、舌を巻きて恐れい りたりとぞ、



『天満水滸伝』
その3























































(もとゞり)
 


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