Я[大塩の乱 資料館]Я
2002.8.13訂正
2002.3.20

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大塩の乱関係論文集目次


「『鷹見泉石日記』にみる大塩事件像

―大坂城代家老のえがいた天保八年二月〜三月の状況―」

その2

中瀬寿一・村上義光・中瀬紀美子

大塩研究 第20・21合併号』1986.3 より転載

◇禁転載◇

2 『泉石日記」にえがかれた〃大塩ブーム〃と 〃大塩狩リ〃の状況 (1)

 さて、大倉精神文化研究所所蔵の写本『鷹見泉石日記十六』には、「正月四月十四日迄」が収められており、最後のところに、先述のとおり「右鷹見泉石日記十六 茨城県猿島郡古河町鷹見久太郎氏所蔵昭和六年七月謄写了」と付記されている。

 この『泉石日記』のなかで、とくに注目されるのは、なんといっても二月十八日の短い記事「銭権返事来○堺江公事御聴……」のあと、なぜかむざんにも切りとられ、「以下記入無し 白紙八枚綴込アリ…」として、「被 召捕候惣人数」「何方ニ而被捕事」「入牢揚屋預」その他、「記入シタル紙片貼付シアリ」、等々として、いっきょに三月一日まで空白のまま飛ばされていることで、まことに興味津々…、さまざまな想像がかき立てられるところであろう。おそらくそこには、大坂城代家老の 『日記』として、幕府などに対し、都合の悪いこと―たとえば大塩への同情や跡部らに対する非難など―が記されていたのではないか、と私たちには推察されるののである。そのあとを読みすすむなかで、ますますその感を深くさせられる。なにしろ大塩への非難・悪罵がほ とんどみられないばかりか、さすがに民衆の情報がよく収集されており、大塩事件につづく打ちこわしの頻発や窮民の動向、さらに大塩をほめたたえた庶民の〃大塩ブーム〃の実情などが克明にえがかれ、三月二十七日の条では、「中斎先生ともいわれるもの」という言葉すら出てきて、私たちを戸惑わせるほどの内容となっているのである。いわば「鎮圧者」の記録としては、まことに意外な敬称がそこに書かれているのである。これを一体どうとらえたらよいのであろうか。

 次に大塩事件と関係のありそうな興味深いところを拾い出して若干列記し、〃大塩父子自爆〃の日の状況をも明らかにしてみることにしよう―。

 まず三月朔日の条では「盤若寺村忠兵衛其外平八郎家内妻尼妻等京ニ而被召捕被遣候由、口書一覧」と記され、三月二日では、「膳所に而、……大坂火事十九日夜に知れ、廿日専ら相分候由、膳所ニ而御入用多有之候由、大津御代官所ニ而も廻り厳重候へ共膳所程ニハ不行届候 由、京六門は御附固候由、偽公家昇殿若党羽織袴ニ而継上下ニ無之故六門ニ而固心付若党草リ(履)取捕、主人ハ昇殿ニ付御殿ニ而被捕町奉行へ差出候由、若党鯛ニ掛持居候由」と書かれ、「精蔵申ニは、京大津辺下々に而は大塩様ケ様ニ迄世のためを思召候儀難有事と申者八分通之由」とまで、〃大塩ブーム〃のひろがりが記されている。そして「門真三番之もの十五人、今日御差出ニ相成候」と記録されているのである。

 以下、さらに次のような情報が、丹念に記録されており、ときとしてかえって蘭学者泉石の人柄をしのばせるものすら散見されるのである。

 (以下の史料は管理人が一部改行しています。)

三月五日……「九津見来、拝領物御礼申、御在所飢人有(御小納戸返上)之困候由」

三月六日……「又々徒党再発之趣風聞ニ付御案志之旨、 矢部様江も三平出候由」
川口辺打毀有之由風聞申越承合、目付中へ申渡候暮前也」

三月七日……「早朝角右工門参、昨日打毀日向町大和や篤兵衛、同町大和屋利兵衛、鉄丁米屋一軒打毀候ハ無宿者五六人之由」
末吉藤左工門里大和国長良村高橋左助へ参、夫吉野郡辺大塩父子尋候積之処実家へ漸参、先ヘハ難参厳重之由立戻候由、庄司義左工門も長良村ニ而垣外取捕候由

浜野忠蔵養子般若寺村忠兵衛弟ニ付風聞有之趣ニ付取捕可申哉公用人へ申候処、町奉行様へ御咄申、夫々不及旨申聞候事」
惣左エ門参、昨日辰己屋打毀候由集候処、十六七人江飯出候而相済候由」

三月十日……「近藤梶五郎宅辺ニ而切腹之由、父錫五郎ハ吟味物也」

三月十一日……「惣左ヱ門出候間弓削村利三郎並同人方へ大塩父子隠居候程如何候哉、御領主ニ而ハ格別構申間敷候間不響候様探申渡」

三月十九日……「鴻池庄兵衛此度焼失之節、証文焼候旨断書出候」
「江戸十三日出六日限幸便状到来、去四日之返書来、大井正一郎外一人之人相書も来、武兵衛状も公用人為見候
○火事場絵図天満船場上町と分数通出、外二焼場書付板本一枚出」

三月廿日…「昨日見廻ニ付差出候焼場天満船場上町絵図三結並町名等板行一枚入御覧候」

三月廿一日…「但見内山彦次郎一昨夜摩耶山より帰捕不申候由申越」

三月廿四日…「近藤梶五郎曽根崎京四郎と申者呼、父母安否尋候処、承合可参旨申」


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