『大塩研究 第26号』1989.7 より
島田茂右衛門の日記より
(天保八年二月・茂右衛門六十六歳)
廿日 晴
七ツ頃南風強し
須本より@五郎左衛門夜に入り帰ル
大坂変有之よし咄す。
廿二日 晴
上八木A地祭人形見物に参、七ツ頃帰ル
晩方不動氏廻勤、来リ帰ル。
廿三日 晴
B生駒隼之助様七ツ過徳府へ御越
C稲田様四ツ頃徳島へ御通行に付五郎左衛門早朝
D八木へ参。四ツ頃和田嘉市来り大坂大変の物語り
す。
廿五日 晴
十九日大坂表異変の儀に付一昨日
E福良浦迄御越
之諸士様、F九郎兵衛様G兵庫様始不残須本へお帰り
被遊ニ付五郎左衛門早速八木へ罷越、九郎兵衛様
八木御昼休、又御目付生駒様御郡代佐藤兵次様八
ツ頃御通
御仕置、中尾河内様夜ニ入徳島
御渡海等通行被遊。
五郎左衛門夜四ツ前八木
帰又、H鶏鳴八木へ参け
る。威光寺来帰ル。
廿六日 午時雨
朝、和田金剛寺
来帰ル。
五郎左衛門八木
朝帰り直様相詰晩方雨止。
十九日大坂表乱妨張本人人相書
公辺
御達御触。
町御奉行組与力
大塩平八郎 歳 四十五六
同 格之助 〃 廿七
瀬田済之助 〃 廿五
同心
渡辺良左衛門 〃 四十壱弐
近藤梶五郎 〃 四十
庄司儀左衛門 〃 四十
廿七日 晴
午時原子来ル 是は梅窓氏切手ニ付、村役人へ相
断之趣ホ相談に参帰ル。
廿八日 晴夜雨
来朔日人改之儀に付八木組御用に付五郎左衛門晩
方I中筋へ参夜ニ入帰ル。今夕刻道人 六ケ浦ホ二
人逗留。夜ニ入雨降暁雨止。
廿九日 晴
明日人改めに付夜ニ入五郎左衛門上八木へ参手配
す。予は村内手配に付本家ニ而宿す。尤雪の社原
子方へ行脚梅窓の義ニ付参帰。
三月朔日 晴
今日J国中人改。夜七ツ頃村内寄合手分相済、暁方
何れも帰ル。大坂奸賊共未行衛相不分故なり。五
郎左衛門夜に入り八木
帰ル。
五日 雨 朝雨降出
九郎兵衛様御通行。雨天ニ付翌日へ相延。五郎左
衛門は八木ニ而宿す。
六日 雨七ツ頃
雨止
九郎兵衛様今暁七ツ時御発。駕之由、被仰聞。八
木昼ニ而御通行。K太郎右衛門様右同徳島へ御渡海
御通。五郎左衛門八木逗留。
去十一月和尚麦蒔付相済候己来雨天勝ニ而田地乾
申遑も無之故、田畠手入今以出来不申。田分之儀
ハ殊更何連之村も同様。肥等も難入雨繁ク手入出
来不申処
草生田分の処は大ニ見苦敷、又此頃ハ
水やけとやらにて麦の根相腐(クチ)枯、近年打続陰気異
成天相故弥
飢饉之姿にて無束眉ヲヒソメ薄氷ヲ踏思なり。
爰許諸相庭
米 百六拾匁位
麦 百四十五匁位
大豆 百二十五匁位
小留豆 百五十五匁位
粟 百拾匁位
黍 百拾五匁位
空豆 百弐拾匁位
近国米値段何れも弐百匁余に相聞へL阿州之方、先
月ハ米値段弐百三十八匁迄の由、此頃にてハ凡弐
百匁位与相聞へ。大坂大変ニ付引下ケ 大坂奸賊
渡辺良左衛門事河州おんち村にて切腹の由相聞へ、
又瀬田済之助、庄司儀左衛門召捕。
七日 晴
午時過 佐藤兵次様御手代、八百太殿同心等阿州
の方へお通。是は大塩一件に付而也。
大塩に関する記録はこの日で終っているが大坂の事件が翌日の二十日には淡路に伝えられている。三日後には徳島と淡路の間を武士達がせわしく行き来しはじめ、三月一日には国をあげて戸籍調査が藩命によって行われ、一般庶民もこれに協力している。特に庄屋職にあると夜もゆっくり寝ていられない様な生活が半月も続いている。藩全体が非常事体制をとっていた事が想像される。
注
@天保八年には茂右衛門は庄屋職を息子の五郎左衛門にゆずっていたので大塩事件について五郎左衛門が須本の役所で聞いて帰って来た。
A現在国の重要無形民俗文化財に指定されている。淡路人形芝居がこの頃は祭日などに盛んに催されにぎわっていた。
B徳島の城。
C淡路は阿波藩の領地である為須本(洲本)に出城を置き筆頭家老・稲田九郎兵衛(一万四千石)を洲本城代とした。淡路島民にとっては稲田氏は「淡路の殿様」であった。
D近隣十数ケ村を束ねる郡役所。
E福良から徳島へ渡る船が出ていた為徳島の藩士が福良
経由で洲本の城下入りをした。
F城代・稲田九郎兵衛のこと。
G稲田一族で宗門改奉行稲田兵庫(千五百名)のこと。
H一番鶏の鳴く頃、夜明け前。
I鳥井村より約四キロはなれた村(現在の緑町広田)まわり数ケ村を中筋村が束ねていた。
J淡路国(全島)すべての所で人改めが行なわれた(戸籍調査)。
K太郎右衛門(文化十二年没)とは稲田兵庫の父の名前。この場合は兵庫のことと思われる。
L阿波藩・徳島方面をさす。
日記の三月六日(雨の一日だった)の文中、一年前より天候不順が続き「水やけ」で農作業が全く進まず飢饉がくるのではないかという心配をしている。そして作物が値上りしていたのが大塩の件ですこし値下りして来たと記されてある。
たしかに大塩の乱は単なる一与力の暴挙とは異り時の政治の有り方に反省をせまるもので後にこの事が原因で「天保の改革」が行なわれたものだと思う。