Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.7.11

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「大塩の乱関係論文集」目次


〔戯曲〕落葉記−大塩平八郎−

その5

奥山健三( 〜 1938)

『奥山健三遺文集』奥山健三君記念会編・刊 1939 所収

◇禁転載◇

第一幕
  第一場 町奉行所(4)
管理人註
   

喜作(つづき) それから野辺の送りも涙の中に過しましたその中に、          なが  此の親父様がまた永の疲れで寝込んで了はれたので御座います。世に  は神も仏もないものか、それからは幾度死んで了はうと思つたかは知  れません。親父様に孝養を尽くすが子の分と、それも思ひ止まつて今  日が今日まで生き長らへて来たので御座います。私達親子はもう昨年  の十一月に死んだも同然な身の上なので御座いますが、此の日まで生  き長らへて居たのも理由があるので御座います。と申しますのは、十  一月の初旬、烈しい風の吹く中に彷徨ひ暮した私は、ふと魔がさした  と言ふか淵に飛び込んで死なうと思つた時、大塩後素様といふ方に出  会ひ、救はれたので御座います。大塩様の話では、心配した事はない、  もう直き官米が出るから心配した事ではない、と言つて、御持ち合せ  の金子の全部大枚三両を下されたので御座います。私にとつては命に  代はる大金、早速帰つて初めて夕の煙を細々立てた次第で御座います。  世には神も仏もあるものと思ひつつ暮します程に、ばた/\死に失せ  る人々、餓死する人々の様を見て居るうちに、此の世が急に嫌になつ  て参りました。先頃また/\ひもじい思ひで水許り飲んで、もう死ぬ  か、もう死ぬかと思ひながら居るうちに、今一度米の飯が食ひたいと  親父様が申しまするので、悪いとは知りながら、人さまのお米を盗ん  だやうな次第。   大塩様は以前に、窮したなら直ぐ拙者に言ふやうにと言はれました  なれど、聞く所によれば、大塩様も貧民を救はんが為に、貴い書物を  全部売り払はれ、家財といふ家財は皆無くなられたとのこと、聞くも  御気の毒な話で、それもならず、斯く人の道を踏み外したもので御座  いまする。 山城守 ほう、聞けば色々と哀れなる物語。さういふ話は近頃よく聞く  が、然し人の持ち米を盗むとは不届きな奴ぢや。此の頃大塩が私財を  投じて貧民を救はんしして居ると聞くが、彼が何程の事をするだらう                    なま  か。今に彼奴も干あがつて了ふ事だらう。生じつか余計な手出しをし  た処で、彼奴に何が出来るか。はははは………。おせつかいなは大塩  ぢやて。(役人達一緒に笑ふ。)   喜作、きつとなつて憤懣の情を現はす。左拳を左膝の上に右腕を後   へ引き、きつと奉行の顔を睨みつける。   奉行所門前にて身を隠し耳を澄して聞き居たる三人の者、これまた   憤怒に堪へぬ様子、間もなく三人の者につこり微笑んで、こつそり   奉行所の門前から立ち去る。十間許り逃れて、それより一散に走り   行く。 若衆甲 よし、それならこちらにも算段がある。 若衆乙 もうかうなつたら大塩先生の例の手段だ。 町人 大塩様のお力をお借り申したら、官米も下るわけだ、よーし今か  ら……。

   


「落葉記」目次/その4/その6

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