Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.9.28

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「大塩の乱関係論文集」目次


『二十三年未来記』
その10

柳窓外史(小柳津親雄)

今古堂書房  1883

◇禁転載◇

○第四 国会招集 (2)

管理人註
  

国会議院は、前に申せし如き方法を以て、一区若しくは数区の撰挙区とな し、凡そ人口十万人の割合を以て議員一人を撰挙し、人口三万以上の都市 は二万人を以て一人を挙げるとなし、全国にて凡そ四百余人の代議士を 得て、之を組織す、此の内より議長を撰む事なり、偖て此の四百余人の議 員中、之を分折すれば、則ち左の如き人物なる可し 財産、土地は多く有したれとも、政治上の議論に至ては一向に不勝手なり、 只だ金力と老年との二つを以て撰挙せられたる人、則ち旧藩の時の家老、 旧名主、富農、豪商の類               全数の五分 官吏にして相応の地位を占めたれとも、少しく智識あるを 以て勇退して国会議員となりたるもの        全数の壱分半 数年政党を組織して大に時勢を造り出、初めて目的を達し、日頃丹練の功 を現はさんとする政論家              全数の壱分半 時勢の風潮に浮かされ、見識なきも何となく議員になりて見たき心地して、 大に骨を折りて撰挙せられし田舎の金満家中の物好き、又は無識の書生の、 僥幸にして被撰せられしもの             全数の二分 此の議員中の一分半、即ち四百人に対したる四十余人と云ふ小数の人物は、 最も国会の精神にして、或は急進、或は漸進の両主義より成り立ちたる者 なれとも、其中の三分の一、僅か二十人許りならでは、漸進主義のものな し、外は皆な急進主義を執らるゝの人物なれば、此の人々の議論多く議場 に勝を制するものと知る可し、而して外々の議員中も、政党の勧誘により て、多くは主義を何れへか表したる人々にて、全数の中、急進家過半数に 及ぶ事ならん偖て何れも撰挙の前に於ては、各政党より数十名の演説者を 各地に派出して、某君は何々の主義を取られて、何々の議論を持ちたりな んどと、党派/\にて頻りに賞めたて、或は他党のものをば、馬鹿だ、無 主義だ、あんな人物が議員とならば、政府へ阿りて、官権の提灯を持つな らん、吾党が苦む所の租税、ます/\多く取らるゝならんなぞと誹謗す、 此に於て撰挙人は少々迷ふ気味ある所を、内々手を廻し、人を入れて、己 が党派の者を撰挙せさんとす、開扎の時は、其撰挙区の事務所へ数千人の 有志者詰掛け、誰々は何百枚の扎を得たり、誰々は何千枚の投票を得たり、 なんどゝ言ふて、互に片唾を 呑み、首を延して扣へる内、已に某々等何                        と き 名多数を得たりと聞くや否や、其党の者はドッと鯨声を上げ、政党本部へ は国旗を揚る珠灯を掲げなどする程の大景気、斯る有様にてあげられたる 代議士は、何れも馬車に打乗りて郷里を出つれば、人民皆な国境迄送りて 歎呼、之を祝す、已に各州の代議士東京に集まり、先つ其由を太政官へ届                しやべり 出つる等の手続に及ぶ。イヤ余り饒舌過ぎて、少しく咽喉が渇きたり、汝、 彼の谷の水を汲来る可しと命ずれば、壮士、畏て谷へ下り、携へたる水呑                          ママ に水を汲て差出せば、翁、之を飲み。さて是より国会開説に至るの未来記 なり、謹んで承はる可し、壮士尚も膝を進むれば、翁、亦た説き出す様

阿(おもね)りて






開扎
(かいさつ)






















 


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