国会議院は、前に申せし如き方法を以て、一区若しくは数区の撰挙区とな
し、凡そ人口十万人の割合を以て議員一人を撰挙し、人口三万以上の都市
は二万人を以て一人を挙げるとなし、全国にて凡そ四百余人の代議士を
得て、之を組織す、此の内より議長を撰む事なり、偖て此の四百余人の議
員中、之を分折すれば、則ち左の如き人物なる可し
財産、土地は多く有したれとも、政治上の議論に至ては一向に不勝手なり、
只だ金力と老年との二つを以て撰挙せられたる人、則ち旧藩の時の家老、
旧名主、富農、豪商の類 全数の五分
官吏にして相応の地位を占めたれとも、少しく智識あるを
以て勇退して国会議員となりたるもの 全数の壱分半
数年政党を組織して大に時勢を造り出、初めて目的を達し、日頃丹練の功
を現はさんとする政論家 全数の壱分半
時勢の風潮に浮かされ、見識なきも何となく議員になりて見たき心地して、
大に骨を折りて撰挙せられし田舎の金満家中の物好き、又は無識の書生の、
僥幸にして被撰せられしもの 全数の二分
此の議員中の一分半、即ち四百人に対したる四十余人と云ふ小数の人物は、
最も国会の精神にして、或は急進、或は漸進の両主義より成り立ちたる者
なれとも、其中の三分の一、僅か二十人許りならでは、漸進主義のものな
し、外は皆な急進主義を執らるゝの人物なれば、此の人々の議論多く議場
に勝を制するものと知る可し、而して外々の議員中も、政党の勧誘により
て、多くは主義を何れへか表したる人々にて、全数の中、急進家過半数に
及ぶ事ならん偖て何れも撰挙の前に於ては、各政党より数十名の演説者を
各地に派出して、某君は何々の主義を取られて、何々の議論を持ちたりな
んどと、党派/\にて頻りに賞めたて、或は他党のものをば、馬鹿だ、無
主義だ、あんな人物が議員とならば、政府へ阿りて、官権の提灯を持つな
らん、吾党が苦む所の租税、ます/\多く取らるゝならんなぞと誹謗す、
此に於て撰挙人は少々迷ふ気味ある所を、内々手を廻し、人を入れて、己
が党派の者を撰挙せさんとす、開扎の時は、其撰挙区の事務所へ数千人の
有志者詰掛け、誰々は何百枚の扎を得たり、誰々は何千枚の投票を得たり、
なんどゝ言ふて、互に片唾を 呑み、首を延して扣へる内、已に某々等何
と き
名多数を得たりと聞くや否や、其党の者はドッと鯨声を上げ、政党本部へ
は国旗を揚る珠灯を掲げなどする程の大景気、斯る有様にてあげられたる
代議士は、何れも馬車に打乗りて郷里を出つれば、人民皆な国境迄送りて
歎呼、之を祝す、已に各州の代議士東京に集まり、先つ其由を太政官へ届
しやべり
出つる等の手続に及ぶ。イヤ余り饒舌過ぎて、少しく咽喉が渇きたり、汝、
彼の谷の水を汲来る可しと命ずれば、壮士、畏て谷へ下り、携へたる水呑
ママ
に水を汲て差出せば、翁、之を飲み。さて是より国会開説に至るの未来記
なり、謹んで承はる可し、壮士尚も膝を進むれば、翁、亦た説き出す様
|