Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.9.30

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「大塩の乱関係論文集」目次


『二十三年未来記』
その12

柳窓外史(小柳津親雄)

今古堂書房  1883

◇禁転載◇

○内閣の更迭を促すの論を唱ふ (2)

管理人註
  

 議長。吾が国議院は、天皇陛下の欽定によりて成りたる憲法によりて組  織せられたる者なれども、吾党は憲法の欽定たると国約たるとによりて  異議を抱くものにあらず、只管国民の幸福を得んを希望するか為に、  発論の権を有したるものなり、故に吾党は立憲政体、国の体裁と国民の  幸福とに関したる一大議問を発せんを欲す。吾が親愛する所の諸君よ、  試に各国の政体書を繙き、内閣宰相は、如何かなる地位にある者より任  ぜらるゝ乎を考察せよ、立憲政体の国に於る内閣宰相は、皆な国会議院  及び元老議員中より国王の任じ玉ふ所にあらずや、余は国会已に開き、  議員已に集まるの後迄も、内閣宰相の依然として在るものを聞かず、是  れ実に吾党の不満足極まる所なり。  斯の如きは是れ欽定憲法に成条なきによりて、然るものにはあらざる乎、  余は憲法中に左の如き一章を加へんを議決し、天皇陛下の上裁を請ひ               ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・  奉らんと欲す、其条に曰く、内閣宰相たるものは、元老院議員、若しく  ・・・・・・・・・・・・・・・  は国会院議員たるものに限る可し 此の議の出づるや、議場は忽ちにして議論湧くが如く、之を賛成するもの あり、之に反対するものあり、其論は左の如くなる者あらん、曰く  議長。某議員の説たる寔に奇と云ふ可し、英国等に於て政党の政論上に  勝を得たるもの、直ちに内閣を組織するの例はあれど、此れ迚も数十年  来の慣行より生じ、又は或る政変によつて此の慣例をなしたるものなり、  初めより法律を以て成文上に斯く定めたるにはある可らず、而して此れ  とても内閣の議と国会の議と合はざるときに於てこそ、宰相は其職を辞  するなれ、国会起りたりとて政事上の議の未だ其議を開かざるに、内閣  の更迭をなすのある可きや、徒らに他国の例を以て吾に行はんとする  も、自ら習慣の同じからざるものあるを如何せん 斯く駁説起れば、賛成論も起りて、議論ます/\勢ひを得、一日二日を以 て決す可らざるに至る、而して民間亦た此の議を伝へ聞て、急進家は何れ も憲法に該一章を加ふ可しと賛成し、各所の政談、演説、討論会場等此の 事を議せざるなく、新聞紙は各々其社説に之を論じて、或は駁撃し、或は 反対するに至らん、然れとも此等の論こそ、余が前に論せし如く(第四章 に在り)、理論と実際とは密着し難しと言ふ所にして、政治は実際に施し て至味至妙の効を奏するを要す可く、理論のみに傾き難き場合ありと言ふ 以所にして、西洋の法律を其儘にて吾れに移す可らざるは勿論なるにより、            ばくげき 議員も着実の徒は、交々駁撃家の地位に立ちて、終に其の議も行はれずな りぬ







只管
(ひたすら)





繙(ひもと)き



























寔(まこと)に




























至味
この上もない
よい味

至妙
この上なくす
ぐれてたくみ
なこと

駁撃
他人の言論・
所説を非難・
攻撃すること
 


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