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議長。吾が国議院は、天皇陛下の欽定によりて成りたる憲法によりて組
織せられたる者なれども、吾党は憲法の欽定たると国約たるとによりて
異議を抱くものにあらず、只管国民の幸福を得んを希望するか為に、
発論の権を有したるものなり、故に吾党は立憲政体、国の体裁と国民の
幸福とに関したる一大議問を発せんを欲す。吾が親愛する所の諸君よ、
試に各国の政体書を繙き、内閣宰相は、如何かなる地位にある者より任
ぜらるゝ乎を考察せよ、立憲政体の国に於る内閣宰相は、皆な国会議院
及び元老議員中より国王の任じ玉ふ所にあらずや、余は国会已に開き、
議員已に集まるの後迄も、内閣宰相の依然として在るものを聞かず、是
れ実に吾党の不満足極まる所なり。
斯の如きは是れ欽定憲法に成条なきによりて、然るものにはあらざる乎、
余は憲法中に左の如き一章を加へんを議決し、天皇陛下の上裁を請ひ
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奉らんと欲す、其条に曰く、内閣宰相たるものは、元老院議員、若しく
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は国会院議員たるものに限る可し
此の議の出づるや、議場は忽ちにして議論湧くが如く、之を賛成するもの
あり、之に反対するものあり、其論は左の如くなる者あらん、曰く
議長。某議員の説たる寔に奇と云ふ可し、英国等に於て政党の政論上に
勝を得たるもの、直ちに内閣を組織するの例はあれど、此れ迚も数十年
来の慣行より生じ、又は或る政変によつて此の慣例をなしたるものなり、
初めより法律を以て成文上に斯く定めたるにはある可らず、而して此れ
とても内閣の議と国会の議と合はざるときに於てこそ、宰相は其職を辞
するなれ、国会起りたりとて政事上の議の未だ其議を開かざるに、内閣
の更迭をなすのある可きや、徒らに他国の例を以て吾に行はんとする
も、自ら習慣の同じからざるものあるを如何せん
斯く駁説起れば、賛成論も起りて、議論ます/\勢ひを得、一日二日を以
て決す可らざるに至る、而して民間亦た此の議を伝へ聞て、急進家は何れ
も憲法に該一章を加ふ可しと賛成し、各所の政談、演説、討論会場等此の
事を議せざるなく、新聞紙は各々其社説に之を論じて、或は駁撃し、或は
反対するに至らん、然れとも此等の論こそ、余が前に論せし如く(第四章
に在り)、理論と実際とは密着し難しと言ふ所にして、政治は実際に施し
て至味至妙の効を奏するを要す可く、理論のみに傾き難き場合ありと言ふ
以所にして、西洋の法律を其儘にて吾れに移す可らざるは勿論なるにより、
ばくげき
議員も着実の徒は、交々駁撃家の地位に立ちて、終に其の議も行はれずな
りぬ
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只管
(ひたすら)
繙(ひもと)き
寔(まこと)に
至味
この上もない
よい味
至妙
この上なくす
ぐれてたくみ
なこと
駁撃
他人の言論・
所説を非難・
攻撃すること
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