Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.10.1

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「大塩の乱関係論文集」目次


『二十三年未来記』
その13

柳窓外史(小柳津親雄)

今古堂書房  1883

◇禁転載◇

○憲法改正の議事  (1)

管理人註
  

            ひとしほ 其議、漸く止んて、政府も一入安途の思ひあり、之が為めには、必ず過激 なる変革などを引起すに至るまじきや抔と心配せし所の人も、漸く心を安 んじたる甲斐もなく、亦此に一大紛議ぞ起りける、其を如何かなるぞと 尋ぬるに、政府にて急躁を好まれざる(第四章)に述べし如くなれば、 国会の権力も、漸次を以て之に与へ玉はんとの深意あり、最も着実にして 秩序を重んぜらるゝの政畧にして、余の如き着実家は大に喜ふ所なれど、 (第四章)に言ひたる如き、狂人、暴人、等の変名を附す可き過激論者、 若しくは急進論家は、頗る不平を抱き、再び左の如き演説をなす者あるに 至る  議長。余は今日此の議場に臨み、此の下附の原案に対し、亦た此の憲法  を手にし、彼を見、此を読み、顧みて吾が職掌の如何を考ふるに至りて、  実に悲憤に耐へざる者あるなり、鳴呼、吾党は国会の開設を希望してよ  り、此に二十余年、今日初めて此の会場に臨み、心中無上の快楽を覚ゆ  可きに、却て悲憤に耐へざる者あるは何ぞや、諸君よ、諸君は二十余年  間、寝食を忘れ、安危を顧みず、汲々滋々として国会開設及び、之が準  備に従事したるものは、果して如何なる目的に出てたる乎、諸君は僅か  に国税の支出徴収予算のみを議するか為めに、二十余年間の刻苦をなし  たる乎、吾党が希望したる国会とは、果して今日の如き微々たる権限の  国会にてありしか、如此に安んせむとすれば、吾党は二十余年間の刻苦  経営はせざりし所ならん、今日に至りて、終に此の有様に陥る、吾党豈  に悲憤に耐ゆ可けんや、諸君よ、諸君は宜しく吾党と共に国憲を更定せ  んを欲せられよ、吾党は速に国憲を改定し、完全なる国会たらしめざ  る可らず 忽ちにして之を賛成するもの続々輩出し、其議漸く多数を占め、已に決を 取らんとするに至り。あわや、此の議、一たび決して国憲を議するに至り             す き ては、政府に対して大に畳隙を生ぜざるを得ず、畢竟此の憲法は国約にあ らずして、欽定にあれば、妄りに議論を以て之を刪正する、素より不敬 の甚しきものなり、故に此の議論の如きは、未だ過激の評を免れず、此に 於て左の如き説、出でたり  議長。国法を改定せんとするの論、稍や勢力を得たるが如し、此の論一  応理あるが如し、啻に理あるのみにあらず、吾人も亦た、此の議の精神、  至正至公にして、天理に近きを知る、然れとも論者は之を改正するの順  序を忘れたるが如し。  抑も此の欽定憲法は何れの手に成りしや、吾党の権限内に定められたる  法律なる乎否やを考へざる可らず、蓋し事物を論ぜんとすれば、須らく  事物の性質を知らざる可らず、夫の欽定憲法は、天皇の勅を以て定めら  れ、勅を以て吾党に下し玉はりし所のものなり、之を改正するは、亦た  天皇の勅によらざるを得ず、然らば改正せんを建議するの議論を決議  するに於ては、吾人敢て不可を言はずと雖も、直ちに之を改正せんとす  るに至ては、未だ同意を表する能はさるなり、宜しく再考あらんを希  望す

刪正
(さんせい)
刪定
文章の不要な
所を削り悪い
所を整えるこ
と




(ただ)

至正
きわめて正し
いこと

至公
この上なく公
正なこと


















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