Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.9.23

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「大塩の乱関係論文集」目次


『二十三年未来記』
その5

柳窓外史(小柳津親雄)

今古堂書房  1883

◇禁転載◇

○第一 秩父山の段 (2)

管理人註
  

斯て幕府は遂に倒れて、王政の御代となりたれば、余も今は幕府を憚かる に及はずと雖も、一たび世上を騒がせし罪人なれば、名乗出んも遉なり、 殊に身九十に余りて、世に栄利を求むるの心なし、只た山中に四十余年を 送りし甲斐ありて、飛行自在にして、且神通を得たり、世にありしときに、 憂国の志深かりしかば、今かゝる身となりても世の中の事ども兎に角と案 じられ、吾国現今の有様、未来の事とも思ひつゝけて、独り涙に呉るゝ外 はなし、今日も二十三年の後、国会開設せられたらん時の様など繰り返し /\思ひ出ゝ、思はず嗟歎の情に耐へす、昔しの詩ども吟して、聊か心を 慰めたるなり、幸にして汝の来るを知りしかば、共に語らまく欲し招き たるが、汝は痛く怪みたる様なりきと有ければ、壮士、聞く毎に、且つ驚 き、且つ歎じ、頭を地に付て申すやう。さては幼少の頃、祖父の物語りに 承はりし大塩先生にて候か、斯る方さまとも存ぜず、痛く失敬仕りぬ、何 とぞ寛怒あらん事なを希ひ奉る、偖て先生には何等の故を以て、現在の より、未来の事ども嗟歎なされ候やらん、国家未来の事に付き、能き御説 もあらんには、仰聞られ下さる様。願ひ奉ると言ければ、翁曰、汝等は国 家の事態、能く知る可きにもあらず、現今の時態にすら、未だ通せず、尚 更未来の事を窺ふを得ざる可し、此等は神通を得たるものゝ能く知る所 なれば、余、今汝に語り聞せん、何事にまれ、国家の事につきて問はんと 欲する所のものあらば申し候へ、とあるにぞ、壮士言やう、されば伺ひ度 事限りなく有之候、左れとも先つ国家に関したる義に付、最も緊要なる件 を伺ひ候はん。二十三年に至りて国会の開かるゝ事は、聖諭の在るありて、 素より変更ある可きにもあらねば、此辺の儀に付ては一切心配にも相成ら ず、然れとも、其開かるゝ迄の手続、又は開設の模様、議事より生する有 様、又た憲法は国約となる可き乎、欽定なる可き乎、国会を開きたる後ち、 政党の運動はいかなる有様なりや、過激なる政変は要せさるも、治まる可 きや、政党内閣と言へるは何年の頃に現はる可き乎、国会議員には、現今 の人物にて誰々か撰挙せられ可き乎、右等の事とも伺置候はゝ、大に世の 為め、人の為にも相成り候ふ可しと申せは、翁打うなつき、汝か言ふ所、 国家の大事ならさるはなし、問に任せて語り聞せん、いざと許りに膝立直 せば、壮士、懐中より鉛筆を取りいで、語る所を記さんとぞしたりける



遉(さすが)なり
そうもいかない




嗟歎
(さたん)
なげくこと






























何事にまれ
何事に「あ」れ
か
 


『二十三年未来記』目次/その4/その6

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