Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.9.24

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「大塩の乱関係論文集」目次


『二十三年未来記』
その6

柳窓外史(小柳津親雄)

今古堂書房  1883

◇禁転載◇

○第二 改革の事 (1)

管理人註
  

其時、翁言けるは、国家の大事は政府の革命に過きたるはなし、人民は常 に政権を分与せられんを望み、政府は之を与ふるを欲せす、是れ上下 の慾相闘ふて、終に革命を見るに至るの原因となるなり、去れとも政府自 ら機を見て施政の法向を改め、人民の望む所につきて、政権を与ふれば、 僅かに改革位の小変革に止まれとも、古今施政者のなす所を見るに、何分 聖賢を分与するを好まず、其れが為に自ら大変革を招ぐに至るあり、 歴史を読みたる者は知る事なれども、政治上の改革中、政府自らなしたる もは、常に十中の二三に居りて、多くは外人民より迫られて為すもの殊に 多し、足下も定めて歴史は読みたらんが、英国にあれ、仏国にあれ、政権 者自ら政権を人民に分ちて、己れと権限を均ふしたる者あるを見ず、何れ も天下の議論やかましく、国内騒然たる勢ひとなりて、斯ては国の為めな らずと、底で初めて政権を分け与へるに至るなり、誰も慾のなき者はあ る可らず、人情として、鼻を拭ひた紙を捨つるにも、何となく勿体なしと 思ふ心あるものなり、堂々たる政権、之を得るときは、命掛けにて得たる ものなるに、口の先で理屈を言はれた位で譲り渡す事の出来ぬは至当の情 なり。又た此れ程結搆なる政権を僅々の人数にて独有するかと思へば、誰 も浦山しく思ふは、是亦自然の情なる可し、之を与へざらんとするも尤の 事にして、之を得んとするも尤の事なり、何れも慾と情との為なれば、何 れか悪しきと言ふ可きにあらず、然れとも余の惜むときは、望む者をして 却て思ひを切ならしむるの理にして、此に美人あらんに、之を手に入れん として口説けど、随はねばいよ/\恋情いや増して、力つくにても思を達 せんとするは男の意地なり、其女、柳條の如くふわり/\として靡くかと 思へば、男の張込も左程に至らず、兎角人間の根性は横に曲つたでもある まじけれど、多く反対に出たるの性を有するものゝ如し、寔に困たと言 ふ可し、左れとも施政者はよく人民の気風を呑込むを以て、第一の要とな す、恰も猫を愛する客が、彼れより金の無心を言れぬ中、此方から心付て 金をやる様な者なり、無心を言れてから遣ると、言れぬ中に遣るとは、其 利めに大なる差あり、政権も亦、人民より望まぬ内に此方より与ふる様に すれば、決して騒動の起る気遣ある可らず、此の政権は命掛で取たのだか ら、命掛のやりとりでなくば渡されぬ。


(まこと)














『二十三年未来記』目次/その5/その7

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