Я[大塩の乱 資料館]Я 1999.9.1

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「房総における大塩平八郎情報
−人相書を中心として−」

佐藤 文智

『大塩の乱関係資料を読む会 第11号』1998.3より転載


◇禁転載◇


 平成9年2月17日、房総史料調査会例会において「房総における大塩平八郎情報 −人相書を中心として−」と題した報告をおこないました。現在のところ文章として発表してはおりません。

 報告は、タイトルの通り房総における大塩情報の伝播を検討することが目的とし、人相書などの触書と風聞書に注目しました。

 まず、人相書の4つのバージョンと触書について、以下のように検討しました。
(なお人相書0などの名称は便宜上つけた仮称であり、( )内は出典を表します。)

・人相書0(『大塩平八郎の時代 ─洗心洞門人の軌跡』)

大坂近辺に2月20日付=騒動の翌日付に出されたと考えられるもので、文言に「又者及時出打殺有之候共、不苦候」、「擬敷者共の入込候ハゝ、たとへ人違ニ而も不苦候」など緊迫感のある文言が見られます。大坂町奉行所から出されたものと考えられ、全国触へと発展したと思われます。

・人相書1(『御触書天保集成』6411他)

 全国触であり、酉3月付で出された大塩平八郎・大塩格之助・渡辺良左衛門・近藤梶五郎・庄司義左衛門・瀬田済之助の人相書です。おそらく大塩関連の人相書の中でもっとも全国的に流布していると考えられます。手配している人物は人相書0と同じです。しかし、人相書0の前述の文言が消え、届け出ることが重視されています。各地域への手配時期から手配者の内、瀬田・渡辺の死は確認されていた可能性があります。

・人相書2(『御触書天保集成』6413他)

酉3月付で出された大井正一郎・河合郷左衛門の人相書です。河合郷左衛門は正月に出奔して騒動に参加していないことから大塩関係者の徹底的な捜査状況が伺えます。

・触書1(『大塩平八郎建議書』)

酉3月21日付で出された大塩平八郎などが剃髪しており、乱暴をはたらいたとの風聞に基づき剃髪している可能性を示唆した上での手配の触書です。江川太郎左衛門宛・葛飾郡藤原新田(代官支配)の外、常陸国志太郡茂呂村御用留に見られるます。茂呂村分は関東取締出役より出されていることや江川太郎左衛門宛の末尾の文言「猶以関東取締出役之者江者、自分どもより直々申渡候」から関東取締出役より村へ触れ出されたと考えられます。

・人相書3(『御触書天保集成』6414他)

酉4月付で出された平八郎外5名召捕に付触書です。大井正一郎・河合郷左衛 門以外は「召捕(自)滅」となっていますが、大井正一郎は大塩平八郎親子が自殺する前に逮捕されています。大井逮捕の連絡が遅れた(京都で捕縛)ためか、もしくは計略として大塩逮捕を偽造されたのかもしれません。

・人相書4(『御触書天保集成』6415他)

 酉4月付で出された大井正一郎召捕えたことについての触書です。内容としては人相書3に正一郎捕縛をつけ加えたものです。ここでは、大塩親子の自殺が大井逮捕より早い表現を使用しています。

 このことをふまえた上で房総に伝わる大塩の人相書をまとめた文書の構造について検討しました。その文書は、人相書1,2と甲州で起きた殺人事件の犯人の人相書がまとめられた構造であり、ほかの御用留などからみた人相書の伝達の順序と違い大塩の人相書がまとめられて作成されています。これは、この文書が大塩の乱に関係する人相書が廻達されてから作成されたことを示しています。犯人探索のため、迅速性が求められる人相書がある程度書きためられている事から、この文書の作成意図が事件解決のためのものより予防のためのものであったのではないかと考えました。

 また、三河国に知行を持つ旗本が入手した風聞書と、房総の村に伝来したと考えられる物語調の文書について検討しました。幕府情報のみではなく、個人的に迅速に情報を得ようとしていたといえます。

この報告に対しては旗本における触書の伝達の状況、幕府から村への触書の伝達状況といった点について不明であるとの批判がなされ、その点についてはまだ解明していません。

                                 
大塩平八郎の乱経過表
年 月 日事 件 関 係 触 書
天保8年
2月19日
大塩の乱発生
20日 白井孝右衛門逮捕 大坂近辺に 人相書0廻達
21日 渡辺良左衛門自殺、
瀬田済之助縊死
人相書0播磨国志紀郡弓削村着
29日 橋本忠兵衛逮捕
3月5日 庄司義左衛門逮捕 江川太郎左衛門に人相書1
8日 千葉郡犢橋村川口家に人相書1
9日 近藤梶五郎自殺
12日 〜17日常陸国志太郡大和田村に人相書1
14日 江川太郎左衛門に人相書2
葛飾郡藤原新田に人相書1・2
17日 〜26日常陸国志太郡大和田村に人相書2
19日 大井正一郎逮捕
21日 江川太郎左衛門・葛飾郡藤原新田に触書1
26日 〜5月8日常陸国志太郡大和田村に人相書4、
米沢藩に人相書1
27日 大塩平八郎、大塩格之助自殺鳥取藩に人相書1
28日 庄内藩領に人相書1・2
4月5日 武蔵国入間郡大久保に人相書2
6日 庄内藩飛島に 人相書1・2
19日 武蔵国入間郡大久保に人相書3
24日 武蔵国入間郡大久保に人相書4

*参考文献に見られる各地方自治体の史料集にはこれらの人相書が掲載されており、 伝播状況と伝播した時期がわかります。


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