『大塩の乱関係資料を読む会 第11号』1998.3より転載
報告は、タイトルの通り房総における大塩情報の伝播を検討することが目的とし、人相書などの触書と風聞書に注目しました。
まず、人相書の4つのバージョンと触書について、以下のように検討しました。
(なお人相書0などの名称は便宜上つけた仮称であり、( )内は出典を表します。)
このことをふまえた上で房総に伝わる大塩の人相書をまとめた文書の構造について検討しました。その文書は、人相書1,2と甲州で起きた殺人事件の犯人の人相書がまとめられた構造であり、ほかの御用留などからみた人相書の伝達の順序と違い大塩の人相書がまとめられて作成されています。これは、この文書が大塩の乱に関係する人相書が廻達されてから作成されたことを示しています。犯人探索のため、迅速性が求められる人相書がある程度書きためられている事から、この文書の作成意図が事件解決のためのものより予防のためのものであったのではないかと考えました。
また、三河国に知行を持つ旗本が入手した風聞書と、房総の村に伝来したと考えられる物語調の文書について検討しました。幕府情報のみではなく、個人的に迅速に情報を得ようとしていたといえます。
この報告に対しては旗本における触書の伝達の状況、幕府から村への触書の伝達状況といった点について不明であるとの批判がなされ、その点についてはまだ解明していません。
年 月 日 | 事 件 関 係 | 触 書 |
---|---|---|
天保8年 2月19日 | 大塩の乱発生 | |
20日 | 白井孝右衛門逮捕 | 大坂近辺に 人相書0廻達 |
21日 | 渡辺良左衛門自殺、 瀬田済之助縊死 | 人相書0播磨国志紀郡弓削村着 |
29日 | 橋本忠兵衛逮捕 | |
3月5日 | 庄司義左衛門逮捕 | 江川太郎左衛門に人相書1 |
8日 | 千葉郡犢橋村川口家に人相書1 | |
9日 | 近藤梶五郎自殺 | |
12日 | 〜17日常陸国志太郡大和田村に人相書1 | |
14日 | 江川太郎左衛門に人相書2 葛飾郡藤原新田に人相書1・2 | |
17日 | 〜26日常陸国志太郡大和田村に人相書2 | |
19日 | 大井正一郎逮捕 | |
21日 | 江川太郎左衛門・葛飾郡藤原新田に触書1 | |
26日 | 〜5月8日常陸国志太郡大和田村に人相書4、 米沢藩に人相書1 | |
27日 | 大塩平八郎、大塩格之助自殺 | 鳥取藩に人相書1 |
28日 | 庄内藩領に人相書1・2 | |
4月5日 | 武蔵国入間郡大久保に人相書2 | |
6日 | 庄内藩飛島に 人相書1・2 | |
19日 | 武蔵国入間郡大久保に人相書3 | |
24日 | 武蔵国入間郡大久保に人相書4 |
〈参考文献・資料〉 仲田正之『大塩平八郎建議書』(文献出版 1990) 国立史料館編『大塩平八郎一件書留』(東大出版会 1987) 森田康夫『大塩平八郎の時代 ──洗心洞門人の軌跡』(1993) 『御触書天保集成 下』(岩波書店 1941) 『大阪府史』 第7巻 近世編 。(大阪府史編集委員会編 1988) 『新修大阪市史』 第4巻(新修大阪市史編集委員会編 1990) 『船橋市史』 史料編 三(船橋市編さん委員会編 1990) 『富士見市史調査報告書第十七集 大沢誠一家文書』(富士見市教育委員会編 1994) 『常陸国志太郡大和田村御用留氈x(牛久市古文書研究改編 1996)*参考文献に見られる各地方自治体の史料集にはこれらの人相書が掲載されており、 伝播状況と伝播した時期がわかります。