『商業資料』大阪経済社 1894.2.10 所収
適宜、読点・改行を入れています。
三月廿一日 伊賀
山城
播州津々
播州浦々
小庄屋年寄共へ
斯くて山城守、伊賀守の両人は、此事を詳しく左の書面に認めて、城代土井大炊頭の手許へ差出しける、看客熟読玩味せば、当時騒乱の実況を窺ふに於ておもひ半に過ぎん
山城
伊賀
二月十七日夜、山城当(山城守)組同心平山助次郎儀、山城守手元へ罷越、密に聞候は、同組与力大塩格之助父隠居平八郎儀、右格之助、并に同組与力瀬田済之助、小泉淵次郎、同組同心吉見九郎右衛門、渡辺良左衛門、近藤梶五郎、庄司儀左衛門、先達而出発仕候元同組同心河合郷左衛門、右助次郎申合、大胆なる儀を企て、棒火具其外器具用意致し置き、近在百姓共人数不相知申合、去十九日、市中其外焼払可申旨、不容易悪計仕、右の者共并に百姓共連判仕候処、唯今の儀、恐入候次第相心付候段、助次郎申聞候間、虚実の程難計、内聞申付、
同十八日、御用日立会の節、伊賀守、右始末申聞及び相詰候処、右企相違無之哉にも相聞候間、両組打交り、早速召捕の事等も難計、伊賀守御用日立会相仕、且つ帰宅後捕手方の儀、山城守へ其組与力荻野勘左衛門、伊賀守組与力吉田勝右衛門申渡候処、山城守へ勘左衛門申聞候は、
未だ虚実の程も聢と不相分、殊に放火(火器)等用意の儀、容易に捕方難致候間、穏便の捕方に致度趣申聞候間、伊賀守へ其段申談じ、山城守にも種々評議の処、翌十九日暁七ツ時前、同組同心云付(書付)判摺の紙面相添、伊賀守御役宅へ同様の趣申立候に、早速山城守へ家来を以て内密申談候処、此事一時も難捨置打合致置候通り、捕方早速差遣可申、手配答仕、
然る処、右連判の内、瀬田済之助､小泉淵次郎､泊番にて、山城守御役宅当番所に可罷在候間、同人へ参り相尋候処、一事に外役覚と相心得候哉、両人共迯走仕候間、淵次郎は討果、済之助は塀を乗越迯走候、右の次第に付、伊賀守、早速東御役宅へ相越候様申遣候処罷越候、
以前平八郎は切腹の段不承知に候はゞ、差違候様同人伯父同組与力大西与五郎へ、山城守申付置候処、途中より不快にて罷越ず迯走候、
済之助より告知らせ候様は、海辺大筒小筒相取設け候等、夫より組屋敷焼立迫り候に付、近辺殊の外騒動、追々天満橋鉄砲打轟き、何れも白昼相携居候処、多人数に罷在、最早穏便の取計仕兼候に付、両組与力同心共へ申付、鉄炮組同心相交、鉄砲を以て可打払旨差図仕候得共、手足り兼候間、遠藤但馬守へ掛合、御定番組与力同心呼集、種々手当仕候内、弥増長仕候に付、御手前様御加へに相成、天満橋北手相固、夫より手薄の場所へ差向ひ候処、天満橋向西の方へ焼立、船場辺に相亘り候に付、米倉丹後守組其外召連、伊賀守罷出候処、内平野辺徒党の者凡四五百人斗相見候に付、打払候処、早速東堀向の方へ迯去、尤(右)場所火勢強く燃立申候、
山城守義も、玉造与力同心召連、引続同様罷出候内、骨屋町にて面会仕候間、申合両手に相分、同人儀、思案橋相渡り、船場淡路町へ相向ひ、道筋見掛け次第打払候処、堺筋辻合にて、山城守目当に励敷鉄炮打掛候間、此方より一同打払ひ候、但馬守組与力阪本鉄之助(鉉之助)場合近く相進み、大筒小筒差配仕居候、名前不知浪人体のもの、其外雑人打留、奸賊紛乱仕候間、場所へ捨置候、大筒其外武器の類相調(この間四文字不明別紙の通)願(取)上候、
伊賀守儀、前書骨屋町より本町橋相渡進行候処、難波橋筋奸賊共罷在候間、但馬守組与力石川彦兵衛先達雑人打払、其(道)筋へ托置候等願上、進行候処、境筋にて山城守に出合、猶申合、其中奸賊共行衛深く相尋候処、一円相見不申、依之所々打固、御手前様御人数は引取り、御城辺相固候様差図仕候、京橋辺へ夫々警羅人数差配仕候、
伊賀守儀は、東堀川筋相固、夫々人数差配仕両人申合、市中人気相鎮り候様取計、召捕方専要手配り申付、直様消防差図に取掛候得共、右の騒動に人足相集り兼ね、追々呼集め、消防仕候処、残賊近辺に相見候風聞時々有之、市中不穏候に付、折々取鎮旁以私共所々見廻り等仕候、
翌廿日同様の取沙汰仕、何分所々穏かならず候に付、夫々人数等手当仕、無油断消防仕候得共、牢屋敷焼失仕、度々及再火焼募り候得共、御城内無別条、両御役宅別条無之、同様五ツ半時頃、御弓町にて火鎮り申候、類焼の者共へ御救米被下候手当仕候に付、此節の趣きにては、市中人気追々折合、最早諸人掛念仕候模様無御座(無御座候)、
右前書申上候鉄之助(鉉之助)、炮術鍛練の上格別励敷き働仕候者、石川彦兵衛儀も認出し候様の打留は無御座候得共、励敷場所先達仕候、其外何れも非常の働仕候儀は、追て取調可申上候得共、但馬守組の儀は、何れも平日の心得掛宜敷相見へ候、巨細の儀は猶追々取調可申上と奉存候以上
二月廿二日 伊賀
山城
御城代衆
二月
松平甲斐守 家老今般大阪町奉行組与力大塩格之助并父隠居平八郎頭取、組与力同心百姓共致徒党火矢等用ひ、大阪町中其外所々火を掛け乱妨に付、夫々召捕手当有之候得共、其元早々人数差出召捕可申候仕儀次第打払打捨に致し差止をも相用候儀、勝手次第たるべく候、様子に寄候はゞ出馬をも可被致此旨、酒井雅楽頭、松平遠江守、青山因幡守、岡部内膳正へも同様申達置候間、可被得御意候
二月廿六日申ノ刻 松平和泉守 水野越前守